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金庫破りのマサが出所して真面目に働いているという喫茶店の前で守田は苦笑した。
「何だ、この名前は」
「喫茶けいどろ、良い名前でしょう」
マサがにやりと笑った。『けいどろ』は警察官と泥棒。警察官役が泥棒役をタッチして捕まえる子供の遊びだ。
「お好きな席へどうぞ」
店内をぐるりと見渡すと落ち着いた雰囲気にそぐわないものがあった。
「何で壁にさすまたが飾られてるんだ」
「ああ。これは防犯グッズです」
「——それにしても目立ち過ぎないか」
「本当のことを言うと、自分にとって思い出の品というか、戒めといいますか。そんな意味もあっていつも目に入るように壁に飾っているんですよ」
「ううむ」
思わず唸ってしまった。過去にこのさすまたでマサを確保したことがあるからだ。
「守田さん、そんな苦虫みたいな顔しないで下さい。私は守田さんに逮捕されて良かったと思っているんですから」
「そうか。ん? なんか変なこと言わなかったか」
「いいえ。どうぞ、お席へ」
さすまたが飾られている壁側に座ってしまったのは特に意味は無かったが、マサが困惑した表情をしたのを見て気まずくなった。
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