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嵐になるとは聞いていない。
通信妨害を受けているのか悪天候のせいなのか、無線はとっくに機能していなかった。
制御のきかなくなった操縦桿にすがりつき、機体の高度を保とうと試みる。
しかし、この風と雨では飛行継続が困難なのは目に見えていた。出発前に確認した地図には、緊急着陸できるような開けた場所もなかったはずだ。
「……あったとしても」
まずい状況に変わりない。緊急着陸用のホイールが作動しないのだ。
背の高い木の枝が擦れる。エンジンの異常を告げる警告音が喚き出す。
飛ぶようになって初めての事態だ。がたつくプロペラが、未知の恐怖心を呼び起こす。
墜落する。
いいや。まだ、おちたくない。
頼れるのは自分の勘と、習慣になった祈り。
軽く、目を瞑った。
「どうかお願いします。かみさま、」
俺はまだ、空にいたいのです。
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