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「飛行士を選択したのは逃げだったというわけか。優秀なバッジをたくさん付けているから、幼い頃からの夢を叶えるためにたいそう努力したのだと思っていたよ、大尉サン」 「ずっと俺の機体にいた割には、何も知らないんだな」 「君が寡黙だからさ。それで? 他には何を隠している」 「そうだな。がきの頃は、祈りの得意な魔法使いになりたかった。憧れていた」  魔法使い、とヒカリは繰り返した。 「空想小説の類を好んでいたのか?」 「実際のものとしてさ。……魔法使いは、言い過ぎかな」  半分炭になった小枝を拾い、地面を引っ掻いて模様と文字を刻む。ヒカリはそれをしげしげと見つめた。 「これが? こんなのが魔法かい」 「失礼だな。立派なまじないだ」  ごく簡単な魔法だ。大きな怪我や発熱を患ったときに、それ以上悪化しないようにとかけるまじない。  決まった文句を唱えながら、単純な図形を描いた真っ白な紙切れで身体をさするのだ。悪いものを吸い取らせた紙は、すぐ火にくべてしまう。  幼い頃から、まじないはどんな薬よりも効き目があるように感じていたものだ。  呪いは、まじないでもありのろいでもある。いずれにせよ、祈りの力を実感する機会には恵まれていた。  胸のポケットから取り出したメモ帳の一片を破る。そこへ地面と同じ模様を描き、ヒカリの額にかざすと、きょとんとした顔を返された。 「お前が治したいところは」 「は? え、い、いや、あるわけがないだろうそんな場所」 「ごっこ遊び。付き合え」 「そんな年になってままごとか? 君に恥というものはないのか」 「魔法使いになりたかった気持ちは消えてないからな」 「…………『なりたかった』?」 「あぁ」 「では今は? 今は、何になりたいのだ」  紙を外す。つい苦笑が漏れた。赤ん坊の問いかけのようだった。 「じゃあ逆に訊くけど。昔からお前は、今のようになりたいと思っていたのか」 「……どうだろう」 「だろ。一緒さ」  気が付いたときには、なりたいと思っていた記憶すら遠くなっていた。懐かしい、と思い返すばかりのものになってしまった。  それだけの、ことだ。
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