伝説のボクサー

「ごらんのとおりだ」森川は靴を拾ってそれを履きながら言う「吉岡の目は止まっているものが勝手に動いているように見え始めたんだ。それは恐ろしいだろうな、ずっとポルターガイストのような現象が起きている訳だからな。それで奴は精神に異常をきたし、ボクシングをやめて姿を消したのだが、まさか、こんなところで会うとはな」
森川の表情は悲しそうだった。それだけ期待できるボクサーだったのだろう。確かに恐ろしいことだ。さっきみたいに靴やカバンや鍋や電気ポットなんかが勝手に動いたらな。
私たちはまた街の中を歩き始めた。
その時、いきなり私の視界に何かが現れた。一瞬、驚いたが、なあに新聞紙が風に吹かれて飛んできただけだった。

ーおわりー