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【キミコイ】秋の気配
最近、南が毎日のように頬にキスをしてくるようになった。
もちろん、嬉しい。
嬉しいけれど、戸惑っているのも本当のところだ。
南に何か心境の変化があったのだろうか。
南と出会った当初、まだ未成年だった彼女に、俺は絶対手を出さないと宣言した。
そして、南が成人した今もそれは守っている。
だが、南はどんどん大人になっていく。
意識しない訳にはいかない。
好意を持ってもらえているのは、わかる。
だからといって、急に、、、
世の中の恋人たちは、いったいどのようにして恋愛をしているんだろうか。
女性経験がないわけではなかったが、当たり前のように、自然にそうなったから、やり方なんてあらためて思い起こそうとしても、どうやってたのかなんて思い出せない。
南はとにかく、俺にとって特別な存在であることに変わりなかった。
森野は優しい。
世界一、優しい。
いつも優しい。
怒らない。叱るけど。
温かい。
なんでもしていいよという。
なんでもしてくれる。
話を聞いてくれる。
一緒に住もうっていってくれた。
一緒にいると楽しい。
夜も怖くない。
そして、大切にしてくれるから。
嬉しい。とても安心する。
保護者?
彼氏?
呼び方が色々あるけど、どれも違う気がする。
管理人さんが言ってた、恋人なら自然にそうなると。
そうとは?
キスは特別なことらしい。
してみたけど、森野はいつも通りだった。
おばさんが倒れた。
肝臓の癌だった。
かなり進行している、と担当医が言った。
おばさんの彼氏はもういなかった。
ひとりぼっちになりたくないとおばさんが言った。
森野にそのことを話した。
「そっか、、南はおばさんのところに帰った方がいいね」
「うん、、」
「唯一の肉親だからね」
「うん、、」
「手術もできない?」
「うん、、おうちで過ごしたいって」
「心細いだろうから、そばにいてあげて」
「うん、、森野、、」
「ん?」
「ううん、行ってくる」
「うん、何か困ったことがあったらいつでも言って」
そうして、南は、行ってしまった。
当たり前のように、いつも、南がここに居て、当たり前のようにいつも笑っておかえりと言ってくれて、当たり前のように、行ってらっしゃいを言ってくれて、
一緒に食べて、遊んで、眠って、、
なんでもないそんな日常が
俺にとって、どんなに大切な日々だったのかを
思い知らされた。
俺は、南が
南が必要なんだ。
今度は俺が迎えに行こう。
景色は、青から、オレンジ色に変わり始める。
頬を撫でる風はひんやりとしていた。
恋をするなら、南、キミとがいい。
秋も冬も春もずっと。
【完】
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