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ペットボトルを抱きしめて
彼と初めて会話をした。無論、僕はほとんど何も話していない。彼の声を聞いて、うっとりする。同時に、上手に会話できない自分が惨めに思えてしまう。希望と絶望。輝きと暗がり。喜びと悲しみ。僕の感情は起伏し続け、一秒ごとに激しく一喜一憂している状態になった。可能性もあれば、不可能もある。彼の光にたどり着けそうだと思えば、一寸先が闇になることもある。僕は彼と話したすべてのシーンを細かく再生し続け、その度に涙を流し、愛おしくて笑み、そしてまた泣いた。両手で彼がくれたペットボトルを抱えながら。
それにしても、どうして彼は話しかけてくれたのだろうか。僕にジュースをくれたのだろうか。それはミステリーでしかなく、僕の心を不安にさせた。素直に嬉しいと思えない自分がいるのは、僕が人間に対する疑心暗鬼が強いからだ。僕は今まで二度も男性から裏切られている。もちろん彼らが悪いわけではないが、結果的に僕の気持ちは女性によって潰えてしまい、抱いた恋心は放棄され、この世界を永遠に彷徨い続けていた。
これは、親切心を含んだ好意だろうか。いや、邪推な見方をするなら「これをあげるからもう来ないでくれ」といったメッセージとも受け取れる。
だが、あんなにも透き通った彼が、人を嫌うことなどあり得るだろうか。純粋に、僕が困っているように見えてジュースを差し出してくれたのではないか。だとすると、僕は彼の優しさを恵んでもらえた青年となる。
ペットボトルには、まだ彼の存在がはっきりと残っている。これを触っているだけで、僕の欲情がたっぷりと満たされていく。僕は彼のことが好き。好きだから、このペットボトルすら愛愛しいと感じる。この目も、耳も、鼻も、口も、手も、何もかもが彼を求めている。彼を欲しがっている。「more」と叫び続けている。
来週、お礼を言おう。「ジュース、ありがとうございました」と、今度は高校生らしく意気盛んに声を出して言ってみよう。それが僕にとっての第一歩だと信じて。
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