男 2

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男 2

 それから月日が経ち、中学校三年のときに二度目の恋をした。相手は、また男だった。同じクラスの吉見くんという、美術部でいつも絵を描いている人だった。彼は色白で、髪がサラサラで、太陽を嫌う青年だった。僕からすると彼の見た目は美しい限りだった。清潔感もあり、とにかく僕好みだった。四月のうちに、僕は彼のことを本気で好きになった。    恋をしていると、幾分か元気になる。学校自体は嫌いだが、僕は吉見くんに会うために毎日通っていた。そして、僕にしては珍しく僕の方から彼に声をかけたことがきっかけで友達になった。彼は僕と似て人見知りだったが、雰囲気が似ているからか通じる部分があり、親しくなるのはそれほど難しくなかった。    六月になって、僕らは学校行事である修学旅行へ行った。もちろん、僕は吉見くんと同じグループを組み、彼と同じ部屋で眠ることになった。その旅行では温泉に入ることができるから、吉見くんの裸を見ることができる。僕はワクワクしながら当日までの日々を過ごした。    だが、修学旅行初日。吉見くんは同じ美術部の青山さんに告白をした。そして、二人は付き合うことになった。修学旅行の二日目に彼はそのことを満足げな顔をして僕に報告してきた。温泉に浸かりながら、彼はずっと青山さんの好きなところを垂れ流すように話していた。それは沸き続ける温泉の湯と似ていた。あるいは退屈なラジオだった。    僕が好きだった吉見くんが、僕ではなく青山さんと付き合う。その事実に僕は心底絶望した。あのとき、どんな顔をして話を聞いていたか覚えていないが、きっとひどい顔をしていたに違いない。    結局、彼とは中学校を卒業するまで友人関係が続いたが、どちらも僕が望んだ関係にはステップアップしなかった。彼らは僕が買うことができない切符を購入し、愛する人と華色の列車に乗って遥か彼方へ行ってしまった。一方で、僕はただ恋の色をした切符を持ったまま、棒立ちで見送ることしかできなかった。    大沢くんも、吉見くんも、僕にとっては間違いなく恋の対象であり、愛を育みたいと思わせる男たちだった。そしてこの二つの出来事を通して、僕は自分が男性の同性愛者、つまりゲイであるのだろうと感じるようになった。ほとんどすべての男子が女子を好きになるように、僕は男子を好きになる。たったそれだけのことだ。    しかしそれだけのことだが、僕は『スイミー』に出てくる黒い魚みたいな気分になってしまい、一抹の生きづらさを感じざるを得なくなった。自分がゲイであることを認知してからは、男子に近づくことが怖くなってしまった。ふとした瞬間にゲイだとバレてしまったら疎外されてしまう。もしかしたら差別の対象になるかもしれない。それがいじめにつながり、僕という存在を破壊するかもしれない。だから高校生になってからは自然と人を避けるようになってしまった。友達を作ると吉見くんの再来になってしまう可能性があるから。純粋な気持ちで友達を作ることができないのは悲観の極みでしかなかったが、慄く精神を優しく抱いてやれるのは僕自身だけしかいなかった。    それにしても、男。また、僕は男を好きになってしまった。今度は同級生ではなかった。見た感じ、彼は大学生くらいだった。ずっとこの街に住んでいたのか、大学はどこか、年齢は、趣味は、好きな場所は、相手はいるのか、そもそも男を好きになってくれますか?    僕の想像は果てしない宇宙へ飛ぶロケットのように、どこまでも進み続ける。その度に下半身が疼いて、胸の内がぼんやりと熱くなって、恥ずかしい気持ちと高揚する気持ちがグルグルとかき混ぜられておかしくなりそうだった。  
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