思い、思われ、振り振られ。

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思い、思われ、振り振られ。

 月曜の朝の学校。  深く息を吸い、ベランダの空気を存分に肺へ入れて、わたしは瞳子の目を見つめる。春の風が瞳子の黒髪を揺らし、余裕のなさそうな顔をあらわにする。少し前から気づいていたけれど、やっぱり瞳子は成瀬が好きだった。だからわたしに嫉妬して、ひどいコメントをしてしまったとも言われた———許されることじゃないけど、本当にごめんなさい。これから朔くんにも同じことを話すし、そのうえできちんと振られてこようと思う。  瞳子は視線を逸らすことなくそう言った。  だから、わたしも真っ直ぐに瞳子を見る。  彼女の中でどんな心境の変化があったのかは知らない。ごめんなさいで済まされることでもない。嫉妬してしまう気持ちは分からなくもないが、それにしたって酷すぎる。瞳子を責めようとすれば、いくらでも責められたが、どうしてもできなかった。あの日、中庭でわたしを見上げていた瞳子と、今話している瞳子は別人みたいだったし、全てを受け入れる覚悟をしてきたようにも思えた。  今、わたしが瞳子に言えるのは「すごく傷ついたよ」という、ひと言だけだった。 「ねぇ、隣の空き教室で、瞳子ちゃんが成瀬くんに告白するんだって!」  二限目の休み時間。わたしがトイレから戻ると、教室中が色めき立っている。「付き合っちゃうのかな」「鉄壁の王子さま相手じゃ、瞳子ちゃんでもムリじゃない?」「まぁ、最近調子乗ってるしね」きゃっきゃと騒ぐ女子たちを横目に、はやる気持ちを抑えながら空き教室へ向かった。廊下に面した窓の前には、既に人だかりができている。その隙間から中を覗くと成瀬がいた。そして向かいには瞳子がいる。  わたしたちから離れた窓際の席で、二人はなにやら話していた。声までは聞こえないけれど、瞳子がしきりに話しかけ、成瀬がそれに応じているようだった。
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