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瞳子が震える指で髪を耳に掛け、深く頭を下げる。成瀬が瞳子を見下ろし、強い口調で何かを言っていた。教室の窓越しに張り詰めた空気が伝わってくる。それは他の生徒も同じらしい。ヒソヒソと囁く声が聞こえた。
「あれ、告白っていうか喧嘩だな。っていうか有志のステージ決めで成瀬とぶつかったんだろ? そんなんでよく告白しようとか思えるよな。可愛いのは確かだけど、わたしならイケるとか思ってんのかな」
笑いの混じった声に振り向くと、隣のクラスの男子が、教室の方を指差していた。瞳子は匿名のアカウントでわたしを中傷したことも、有志のステージで吊し上げた理由も、ぜんぶ包み隠さず話して———告白したのだろう。違う意味での告白も含まれているな、と、肩をすぼめ、教室に視線を戻しかけたとき、
「うるせぇな。外野がちゃちゃ入れんなよ」
千代田くんの声がした。首を伸ばしてよく見ると、男子の横に機嫌の悪そうな千代田くんがいる。両腕を体の前で組み、じっと教室の方を見ていた。
「どうしたんだよ千代田。お前はてっきり、瞳子ちゃんのこと嫌いだと思ってた」
「そりゃ昔の洲崎は死ぬほど嫌いだったよ。でも今は———今の洲崎は違う」
わたしもそう思う。今、成瀬と話している瞳子はちょっと前の瞳子とは別人だった。背後に気を取られているうちに、ガラガラとドアが開いて瞳子が出てくる。そして、人混みを掻き分けるようにして、トイレの方へ走り去っていった。
「絶対フラれたよね」「え、なんでフったの?」「成瀬くんフリーのままでよかった」安堵のため息と騒めきが交差する。残された成瀬がどうするかと思ったら、なに食わぬ顔で出てきた。
「お前、瞳子ちゃんのことフったろ」
駆け寄ってくる男子たちに、「フったよ。俺、好きな子いるから」ポツリとそう言った成瀬は、ふらっと漂わせた視線を、わたしの前で止める。
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