思い、思われ、振り振られ。

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 横に流された癖のない黒髪。色の白い鼻筋の通った顔。横に引き結んだ唇。細い首とシャツから見える鎖骨。眼鏡の奥の目がもの言いたげに細められたかと思うと、すぐに視線を逸らしてしまう。成瀬はそのまま教室の方へ歩いていった。その背中を見送ったわたしは、ゆっくりと胸に手をあてる。好きな子いるなんて知らなかったし、気づかなかった。でも、成瀬の瞳には間違いなくわたしが映っていたと思う。  つまりこれは———そんなふうに思ったけれど、気のせいだと言い聞かせて、わたしも教室へ向かった。  この出来事を境に、瞳子は完璧に孤立してしまった。こういう時、女子って難しいな、と思う。金曜まで一緒にいた沙羅ちゃんから距離を取られ、瞳子を慕っていたはずのクラスメイトたちも、話しかけようとしなかった。  けれど、成瀬の席にはたくさんの人が集まっていた。みんながみんな、フった理由を聞き出そうとしているようだが、「言う必要ない」と成瀬は突っぱねている。なにを聞かれても、なにを言われても、告白されたことを面白おかしく話さない———噂を栄養にして生きてるクラスメイトとは明らかに違っている。そういうところが成瀬のいいところだと思った。    午前の授業が終わって昼休みに入ると、沙羅ちゃんがお弁当を持ってわたしの席へ来た。 「一色ちゃん、一緒にお昼食べよ」 「ああ‥‥うん」  わたしは笑顔を作って顔を上げる。教室の騒めきの中、自分の席にポツンと座る瞳子の背中が見える。それは、クラス替えをしてすぐの自分みたいに、ひどく寂しそうだった。  あの時、瞳子はわたしが一人でいるのに気づいて、友だちになってくれたのだ。あれがなければ今頃、ひとりぼっちで行動して、トイレでごはんを食べていたかもしれない。
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