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「ごめん、わたし瞳子と食べる」
沙羅ちゃんの顔も見ずに言って、席を立った。お弁当も持った。瞳子に一人でお弁当を食べさせないために。
真っ直ぐ瞳子の席へ向かって歩き、後ろから肩を叩いた。ツヤツヤとした髪を揺らして瞳子が振り返る。
「ひーちゃん、どうして」
「瞳子、一緒にお昼食べよ」
「え?」瞳子の驚いた表情が、ふいに切なそうなものへと変わっていく。
「‥‥あのね、ひーちゃん。あたしがひーちゃんに話しかけたのは、自分をいい子に見せるためだったの。あたしは最初からひーちゃんのことを利用するつもりで———」
「そうだったとしても、瞳子に声をかけてもらって嬉しかったのは本当だから」
「また、一緒にお昼食べよ」瞳子の言葉に蓋をするようにして言う。自分が傷ついたことも、ムカついたこともあの一言に込めたのだから、もう瞳子を責める必要はない。
「ひーちゃん‥‥」
ゆっくりと瞳子が口を開いた。わたしは瞳子を見つめたまま、深く頷いた。泣き出しそうな顔が、ふいに柔らかな笑みになる。
「おーい、洲崎瞳子いるー?」
突然聞こえた大声に振り返ると、千代田くんがドアから入ってくるところだった。大きな紙袋と、パンパンのビニール袋をぶら下げながら「わたやんも一緒か」とわたしたちを見て言う。
「これ、ありがとう」
ドサッと床にビニール袋を下ろした千代田くんは、紙袋を瞳子に渡す。驚いた表情を浮かべながら、瞳子は紙袋の中を覗いた。
「返さなくてもよかったのに———ん? なにこれ」
瞳子が引っ張り出したのは、白いパーカーだった。肩の部分を持って広げると、やっぱりスーパーチヨダと書いてある。
「スーパーチヨダのノベルティ。わたやんとお揃いがいいと思って、洲崎のも白にしておいた」
千代田くんは呆然とする瞳子にそう言って、ビニール袋を持ち直すと成瀬の席の方へ去って行った。
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