思い、思われ、振り振られ。

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 「え、ちょっと」言い掛けた瞳子の声に蓋をするみたいに、千代田くんが成瀬の席にビニール袋を置く。 「ほら、野菜ジュース一ヶ月分、三十本。耳揃えて用意したぞ」  席に座っていた成瀬が「学校に持ってくるかよふつう‥‥」と言って、500mlの野菜ジュースをつまみ上げる。成瀬がいつも飲んでるパッケージのやつだった。 「昨日、俺との約束すっぽかしてなにしてたの?」  そう言って、野菜ジュースを物色する成瀬。袋を覗き込んでいた千代田くんは、中からメロンパンを取り出すと、「ナルとお茶するより、もっと重要なこと」短く笑う。そのとたん、席に座っていた瞳子が、ごほごほと咽せ始める。あれ———? この二人何かあった?  瞳子の咳に反応したのか、千代田くんがくるりとこっちを向いて、わたしはその爽やかな笑みに釘付けられた。 「ほら、なにしてんの二人とも。こっちでごはん食べよ」  わたしたちの返事も聞かずに、千代田くんは成瀬の腕を引きながらベランダへ出てしまった。  告白された方とフラれた方が一緒にごはんを食べるのは気まずい。どう考えても気まずい。なのに、「行こう」と瞳子が平気な顔で席を立つ。え、いいの? ほんとに大丈夫? 焦るわたしの裏腹に歩き出す瞳子を追って、わたしもベランダへ向かった。  「えーっと‥‥」と、わたしは言葉を転がす。わたしたちは狭いベランダに三人で座っている。楽しい昼休みのはずなのに、みんな一言も話さない。成瀬に至っては、一人だけ手すりに寄りかかり、中庭の方を眺めていた。 「えーっと、こうやって四人で集まるの初めてだよね」  「ああ、そっか」食べ終わったメロンパンの袋を縛りながら千代田くんが言う。そっか———じゃなくて、誘ったのはあなたなんだから、この空気どうにかしてよ! 必死に目で訴えていると、千代田くんが此方を向いた。
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