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千代田くんはぽりぽりと頭を掻いたあと、なにかを思いついたように「あ!」と大声で言う。
「実はオレさ、有志のステージ出ることにしたんだ」
「え、チョコなにやんの?」
振り返りながら成瀬が言い、
「らしいね、噂で聞いた」
横に座っていた瞳子が、千代田くんの方を向いてお弁当のふたを閉じる。
「あえて外のステージを使わず、下のスペースでスケボーやったらカッコいいっしょ。もうここぞとばかりに大技決めて、女の子のハートを独り占めだよ」
千代田くんは指で銃をかたどって、ばきゅんっ、と成瀬を撃った。左胸を押さえて撃たれた演技をする成瀬。目の前でじゃれる二人を見ていたら、わたしの思考は文化祭のステージへと飛んでいった。千代田くんがめちゃくちゃカッコいい演技をして、女の子を狩まくったあと、ステージに上がるのはプレッシャーだ。のろのろとお弁当を巾着にしまって、わたしは、はぁ、っと深く息を吐いた。
「そこで、モブ子ちゃんに頼みがあるんだけど」
千代田くんの声が弾む。瞳子が息を飲む気配がする。モブ子ってもしかして———恐る恐る横を見る。瞳子が千代田くんを睨んでいた。それはもう今にも掴みかかりそうな形相で。
「あのさあ、忘れた頃にその名前で呼ぶのやめてくんない?」
「うっわ、モブ子ちゃん顔こわっ。ダメだよそんな顔しちゃ、性格の悪さが滲み出ちゃうよ」
「あんたねぇ!」
楽しそうな千代田くんに瞳子が怒鳴る。今まで見たこともない表情に、わたしはポカンとしてしまった。瞳子が、あの瞳子がモブ呼ばわりされている。それだけでも驚きだが、ちょっと崩れた言葉使いも新鮮だった。
握った拳を解いた瞳子は、「ダメよあたし、感情的になったら負けだわ」と胸を押さえて呟いたあと、咳払いをして千代田くんに向き直る。
「なによ、頼みって」
「オレの出順をわたやんのステージの前にねじ込んで欲しい」
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