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「簡単に言えば、声帯にポリープができて、喉が腫れる病気です———ええと、綿谷さんは、コーラスをやってるんでしたっけ?」
病気になったきっかけを探しているのか、医師は顎を触りながら、カルテに視線を落とす。
「はい」
「練習はどれぐらいしていますか?」
「全員で合わせるのは週に一回ですけど、自主練習は毎日しています」
わたしの掠れた声に、医師は顔を上げた。
「喉の使い過ぎですね」
「そう言われても、練習しないと上手くならないですし‥‥」
医師が苦々しい顔をしていることに気付き、わたしはそこで口をつぐんだ。医師の言葉を待った。蛍光灯に照らされた白衣が、やけに眩しく感じる。
「このまま無理を続けると、声が出なくなる可能性もあります」
「えっ、そんな———もう、わたしは歌えないんですか?」
診察室へ入った時よりもいっそう低くなった声は、ゾッとするほどこもって聞えた。
息ができない水の中で、必死に悶え苦しむような『絶望』をはらんだ音。救いを求めても誰にも届かない音。
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