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休学していた間地央が何をして何を考えていたのか本当は気になって仕方なかったけれど、地央から口を開くことはなかったし、真直自身何を聞いても嫉妬してしまいそうだからと敢えて聞くことはしなかった。
だから地央の口から出た言葉をきっかけに、空白の半年間の開いたドアに手をかけて開けてしまいたくなる。
「休んで何やってたんすか?」
「んー?ま、色々。お、やべ。楠6秒ジャストだってよ。やっぱ野球部瞬発力あるよな」
少し開いたドアにはチェーンがかかっていた。
はっきりと、根掘り葉掘り聞けばいいのかもしれないが、目のことから再出発をする為の期間だったのだろうと思ってしまうと、随分吹っ切れたように見える今その苦悩を掘り返させることはしたくない。
そして何より一番は真直自身、地央が傍に居て笑ってくれているだけで満たされているから、今があればそれでいいのだ。
地央が帰ってきてからの世界は、時を経てくすんでしまった絵画を修復した後のように明るく、毎日が浮き足立っていて、何から何まで輝いている。
それはこれまで感じたことのない感覚で、自分の目がたった一人の存在でこんなにも周りを美しく感じられることが不思議だった。
今まで「ヤらしてくれない女と付き合う意味はない」なんて思っていたのがウソのように、搦め手のようなキスから先に進めない。
自分をそんな風に変えてしまった地央という存在。
恋人とは呼べないけれど、単なる友達とはいいかねるような微妙な関係。
やきもきすることも多く、いっそ押し倒してしまいたいという衝動に駆られるけれど、失ってしまったらと思うとどうしても怖くて。
だから今は……。
真直は後ろから地央の肩に両肘を乗せ、背が低いことをからかうフリをして後頭部を抱えると、頭に乗せた手に隠してその髪にキスを落とした。
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