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 いるはずのない地央の姿を見つけた真直の目が見開かれ、口が地央の名前を形どる。  一瞬だけ浮かんだ泣き笑いのような顔を見てしまえば、胸にぐっと何かが刺さった。  それはこみあげる罪悪感。  一来に口づけを許してしまったことを後ろめたく思うほどには、真直は自分の心のどこかを占めている。  そして一来の腕も、唇も、違うと思うほどには、自分のどこかは真直を受け入れている。  そして、愛とか恋とかそんなものではないと思うけれど、毎日、どこかのタイミングで真直のことを考えている。  今まで自分の脳を、心を、体を、誰かがこんなに占めていたことなんてないから、どうしていいかわからない。  ただ一緒にいたいってだけじゃ、ダメなのか?  少しの笑顔を浮かべ首を傾げて見せ、ガラスの向こうの地央に慌てて駆け寄ろうとした真直。射座の後ろのパイプ椅子に勢いよくひっかかり転倒しかけた。 「……あほ……」  思わず失笑してしまう。  間抜けすぎる……。  狼が、バカ忠実な犬になったような瞬間。  標的に向かっているときとはまるで別人だ。  射場は全てガラス張りになっていて、真直が出口に走るのを見ながら地央もそちらに向かって歩き始める。  エントランスから飛び出した真直は当然まだ射撃コートを着たまま、グローブすらもはめたまま地央に駆け寄り、地央の腕に伸ばしかけた手を、思わずといった風に引っ込め、二歩ほど後ろへ下がった。 「そんなに慌てなくても逃げねえし」  その言葉に、真直は砂を噛んだような顔をした。 「逃げたし。今日」  ガラスの向こうから聞こえるライフルの音にかき消されそうな真直の声。 「白い手袋した人の車で……」 「ああ。あれ。あー、えと、紅茶もらいに」  その紅茶の代金代わりのキスが浮かび、つい言葉にはキレがなくなってしまう。 「で、なんでここに?」  学校や寮にハイヤーで乗りつけるのが嫌だった。そして何よりは……。 「ん? ああ、いや……」  お前に会いたかったから。  そう言えばなんて答えるだろう。  抱き締められるならお前がいいだなんて。  お前のキスじゃないと違う気がするだなんて。  そんなことを言えば、きっと喜ぶんだろうな。 「ラーメン食いたい。けど、一人じゃ行けないから一緒に来い」  ……何を言ってるんだ、俺は。  視界の関係で真ん前が見えないからラーメンは得意じゃない。誰かと一緒にいかないと、隣の人を見てるみたいになるから。  でも何がどうって俺は別にラーメン食いたいわけじゃない。  口をついて出たのは理不尽な命令の、勝手なわがまま。なのに真直がビックリするほど嬉しそうに笑うから、胸が苦しくなった。 
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