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うららかな日和だった。 屋敷の玄関の前で、青年とドラゴンはいつものようにたわいのない立ち話に興じていた。 ふいに、ゾッとするような違和感を感じたのは、ドラゴンだけだった。 しかし次に、青年をめまいのような感覚がおそう。 それから、すぐそこの空間がぐにゃりと歪んだ。 ドラゴンは青年をかばうようにその歪みと彼の間に立つ。 歪みから、人の腕が出た。 「な、んですか?」 青年の問いにこたえはない。 それから腕だけでなく全身が現れる。 ぽんっという音でもしそうな様子でが抜け出ると、歪みは跡形もなくなった。 「ただいま、リィォ!」 歪みから出てきた彼が言った。 赤毛の美少年だ。人間でいうと十四歳くらいだろうか。とてもとても見おぼえがあるような顔をしている。 「あれ、リィォじゃない」 彼はふたりを見て、首をかしげた。 「おかえり兄さま!!!」 と、屋敷からまるで転がるように出てきた魔女が、彼に飛びついた。 そのいきおいでふたりは地面にぶつかる。 しかし魔女は彼をはなさなかった。 「ただいま」 彼は魔女の頭を撫でて、あらためて言った。 呆然としていたふたりは、我に返る。 「兄、生きてたのか」 「お兄さん、生きてたんだ」 と、同時に口にした。 「当然じゃろ、失礼な」 魔女がキロリとふたりをにらむ。 「だって、向こう側へ行ったとか言うから。てっきり」 「ああ、それはたしかにややこしいよなあ」 そう応じたのは、兄さまと呼ばれた少年形の彼だった。 「“向こう側”というのは魔女界の慣例的な呼び方なのだけど、魔女以外には馴染みがないからなあ」 それから彼は妹を見た。 「ところで、彼らはいったい誰なんだ?」
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