1人が本棚に入れています
本棚に追加
キキとロント
女王の私邸。
陽気のよい昼、リビングはぽかぽかとあたたかく、ソファの上の王配殿下は娘婿(その1)の膝枕ですよすよ寝こけていました。
シフシュは時折その髪を撫ぜたりしながら、本を読んでいます。
「ただいまー」
と、女性の声がしました。
女王陛下のご帰宅です。
「おかえりなさ……」
キキはふたりの様子を見るなり、シフシュにむかってしーっと人差し指を立てました。
そっとソファに近づくと、中指を親指にひっかけて力をためます。
そして、ロントのひたいをビッと弾きました。
「い──っ」
ロントはたまらず飛び起きます。
「はぇ? いたい──なに? あー……キキ?」
「ただいま」
「おかえり?」
「妻が働いてるあいだに若い愛人のひざまくらで惰眠をむさぼるとはいいご身分だな、ロント」
「そういう言い方やめてよう」
その抗議を、キキはハハッと笑い飛ばしました。
「なにがあったの? 僕、なにされた?」
ロントは、ひたいをさすりながらキョロキョロします。
「でこぴんです」
答えたのはシフシュです。
「なんででこぴん」
「なんかムカつく顔で寝てたから」
と、キキ。
「ひどい」
ロントはほおをふくらませるようにして、むくれました。
なかなか成人男性のやるしぐさではないですが、かわいい、と、シフシュは思いました。
「わりと痛かった」
「赤くなってますね」
じっとのぞきこむと、ロントのひたいはうっすらと赤らんでいるのがわかりました。
「えー」
シフシュがそれをいたわるように撫ぜると、ロントは気持ちよさそうに目をすがめます。
「そうだシフシュ、今日お父上に会ったよ」
いつのまにか台所の方にまわったキキが言いました。
「うちの父ですか」
「うむ。末息子の様子をたいそう心配しておられたので、実によくやってくれていると伝えておいた」
「ありがとうございます」
「たまには顔を見せに行ってあげるといい」
「はい」
「休みは有効に使ってよいからね。あまりそれを甘やかすでないよ」
「今日は俺もこの後まだ授業があるので。休みを潰したわけではありませんから」
「そうか」
「お気づかい感謝します」
「おまえはデキのいい子だから心配はしていないのだけど、遠慮はいらないよ」
「はい」
「ご家族からかわいい末っ子を急に取り上げてしまうようなかたちになって悪かったと、我々も思ってはいるのだ」
「うちの者はきっとそんな風には思っていませんよ」
「だろうね。気持ちの優しい人たちだ」
キキはそう言いながら流れるような動作で今日のおやつをテーブルに運んできて、席につくと、ぱちんっと手を合わせました。
「では、いただきます」
最初のコメントを投稿しよう!