0人が本棚に入れています
本棚に追加
9/20
今日は雨の香りがする。
君と出会ったあの通りを今、歩きながら書いている。
傘なんて使う気がなかったから棄ててしまったけれど、寒かった。
今は季節の継ぎ接ぎに触れているのだろう。
あの海よりも冷たく、何だか独りだ。
近くにあったコンビニには寄らずに、傘なんて買ってやるものか、と少し強がってバス停に並ぶ。
と言っても、独りだった。
体温が下がりきっていた所為か、少しお腹がいたんだけれど、プライドで痛みを殺した。
バスの中は未だ夏の景色を残したいのか、冷気が、人工の冷気が燃えた心を冷やしていた。
ここまで寒いのは、まるで雨の冷たさみたいだ。演出方法を考え直した方が良いと思う。
あのアパートの最寄りへと向かうバス、窓の外。
窓に張り付く雨粒は、ここが地上だということを再認識させた。海底で涙は滴らない。
この空の暗さは、例えるなら、なんだろう。
君の景色とも一概に言えないのかもしれない。前に歌に書いた気がする。とても前に。
ただ、なんだろう。何だか強い孤独感、劣等感があった。
怖いんだ。
何も無いようで、何でもあって、気を抜いたら、堕ちてしまいそうで。
壁がないから、君っていう姿がどこにもないから足が海底についてくれない。
否、それも消える勇気が無かったからか。
昔からそうだ、僕の物語は決まって顧みて終わる。
自分の矛盾を認めて、悪を嘆いて、幸せなハッピーエンドを迎える。
そんなの、イデアであって、人生じゃあない。有り得ない。
自分を見るのが怖いんだ。
君の景色を巡って、自分が壊れてしまうのが。
あの夜明けの綺麗だった海の底に辿り着く未来が。
その時雨が降っていそうで。
今は上がってこない方がいいよ。
僕は今、そっちに行けないし、
傘、買ってないしさ。
僕は君を探している。
最初のコメントを投稿しよう!