詩書きと珈琲

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詩書きと珈琲

季節外れの雨曇り、赤朽葉。 夕陽染まりの街はカプチーノみたい。 ひとり、 その街を他所に珈琲を淹れる。 ひとり、 硝子に滴る、くろい秋の声。 そして、僕は詠む。 雨の降らない、カプチーノみたいな日。  この日も夜の訪れを願い、僕は詩を描く。 ごくり、ごくり、ごくり。 ブレンドした想いが喉を伝う。 凋落した魚みたいな雲を想う。 あるいはいっそ、秋時雨が降っていたのなら 君に届いていたのだろうか。 そして、僕は詠む。 僕は珈琲はドリップしか飲まない。 ごくり、ごくり。 雲が流れ、光が窓に刺さった。 ごくり。 心の奥に飲み捨てられたマグカップが泣いている。 君を忘れる為に、それを嘔吐している。 だけれど。 ご、くり。 そう、分かっていた。 忘れたいと願いながら、今でも珈琲を飲んでいる。 何時迄もカフェインの薫りに酔って、記憶の匂いに依存して、 忘れられない事を望んでいるのだ。 僕は、読む。 何もかも消し去ってしまいたいのだ。 思い出も、日常も、薫りも全て この記憶を殺してしまいたいのだ。 ひとり。 また、ひとり。 万年筆に溢れた涙は珈琲に似ていた。 滲んだ筆跡が、イタリアンロォストみたいだ。 その雨は彼の詩を何処かへとつれていった。 “珈琲”と詠んでいいのかすらわからない。 ミルクばかりが増え続けて、 カフェラテになってしまったのだから。 この詩も全て、珈琲にしてしまえたら、 僕はブラックでも心に焦がすだろう。
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