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「あ、ちょっと待って」
「なに、買い物?」
「うん」
愛用のパジャマの色違いを見つけた。三年着たおした自宅のパジャマはよれよれで、とれてしまったボタンの代わりに違うのをつけたりしていて、そろそろ寿命だった。
「これこれ、生地が柔らかくて寝やすいんだよな」
「えっ?!」
「え?」
「沢・・・ってパジャマで寝んの?!」
「え?他に何着て寝んの?!」
「他って、Tシャツとかだろ?夏はパンツだし」
「嘘だろ?!パジャマ一択じゃないの?!」
「いやいやいやいや」
同僚で学生時代からの親友の飯島瞬はこれ以上ないと言わんばかりに目を見開いて俺を見ている。
「パジャマって女子かよ」
「何言ってんの、一回パジャマで寝てみろって。めちゃ安眠できんだぞ」
「関係ねーだろ、Tシャツでもよく寝れるわ」
「パジャマの底力を知らねえな」
「知るか」
「もったいねえなあ」
「もったいなくねえわ」
「安眠グッズとか興味ないの?」
「ない」
「えぇ~・・・」
飯島のそっけなさに俺は心が折れそうになったが、パジャマ売場の向こう側にずらりとならぶ物を見つけて、いいことを思いついた。広大なフロアにありとあらゆるものが並ぶ大型日用品の店。見つけたのは。
「飯島!じゃあこれは?」
「じゃあってなに」
「これ気持ちいいんだって、持ってみ?」
「ただのクッションでしょ」
「ただの、ではない!もっちもちだぞ」
「・・・・・・・ほんとだ」
「これはな、背当てにもなるし、抱き枕がわりにもなるすぐれモノなんだぞ。何を隠そう俺も持ってるし」
「持ってんの?」
「そう!ちょっとこれに顔埋めてみ」
「顔ぉ?」
俺の勧めに従って、飯島はクッションにぼふっと頬を当てた。
「・・・・・・・・・・」
「どうよ」
「・・・・・・きもちい」
「だろ?はいお買い上げ!」
「えっ?!俺が?」
「そう!おそろにしようぜ。色はこっちね」
「マジで言ってんの?」
「マジ!なんかよくね?同じ枕持ってるって」
「意味わかんねえ」
「いいから買えって」
「なんなんだよ、もう・・・・・・」
飯島はしぶしぶクッションを持ってレジの列に並んだ。俺は飯島の背後でニヤケそうになるのを必死で堪えた。
あいつとおそろいのものがこれで二つになった。一つ目は、高校の修学旅行で買ったキーホルダー。レジに並ぶ飯島の財布の端っこで揺れているゆるキャラがそれだった。
俺はポケットの中の財布に触れた。片割れはちゃんとここにいる。
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