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人違いか?それとも、俺のことなんか向こうもきれいさっぱり忘れていた、ということか?それはそれで少し面白くないような気がしなくもなかったが。
もし本人だとしても、今目の前にいるこの子は、いかにも普通の子に見えた。やはり、あれは大人をからかって遊んでいただけだったのだろうか。
それならそれで一安心だ。今日この子達の半分保護者役を無事に務め上げることだけ考えていればいい。そしてあとはきれいさっぱり切れればいいのだ。多少混乱しながらもひなたの顔を盗み見る。ひなたは視線に気付いたようで、一瞬こちらを見た。そして、ふい、と空を見上げた。
「いい天気ですねー。一雨来そうですね」
「ああ……って、あ?」
何か妙なことを言われた気がするが、ひなたはさっさと友達の所に歩いて行ってしまった。
豪雨襲来。「一雨」では生ぬるい。歩き出して三十分もしないうちに、急に土砂降りになった。
「かっぱ、かっぱ、かっぱっぱー」
子供達はそれでも元気だ。その様子が実年齢よりも幼く見えてちょっと微笑ましい。彼女たちは歌いながらレインコートを買いに近くの洋品店に走る。「洋品店」というレトロな響きがぴったりの、いまいち営業しているのかいないのかわからないような店だった。
笹原は、彼女達とは少し遅れて植村と一緒に店に入った。タオルはきちんと持って来ていたので、それで軽く体を拭う。
「それにしても、元気でよかったわー」
植村がほっとしたように呟いた。
「え、俺そんなにへこんで見えました?」
驚いて尋ねると、「大の男の心配なんか大してしてないわよー」とあっさり言われた。まあ、大してしてない、ということは多少はしたということだろう。
「じゃあ、誰のことです」
「ひなちゃんよー。あの子三月にご両親亡くしたばっかりなの」
あ、やっぱり。
どうやら、北条ひなたは鑁阿寺の彼女と同一人物であり、言ったことも、でたらめだったわけではなかったらしい。
「そうなんですか、まだ子供なのにかわいそうに」
当たり障りのないことを言っておく。
「そうなのよー。知り合いのお家に預けられたんだけどねえ。なんか、すっごく……忙しそうなの」
「忙しいって、こき使われてる、とか」
ちょっと信じがたい。現代版シンデレラか。いや、あれは継母か。
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