神助け

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神助け

一 神助け 「突然すみません。私の処女喪失にご協力お願いします」  その女子中学生は、赤い羽根共同募金をお願いするかのような口調でそう言った。丁寧かつ当然の義務を要求するような口調だ。  今は年末じゃないよな、とあたりを見ながら確認する。広い境内には桜が咲き誇っている。つまり、この中学生は赤い羽根の活動中ではない。さきほどの四文字熟語に聞き間違いはない。  高校生でもなく、小学生でもなく、中学生であるとわかったのは、この近辺の中学のセーラータイプの制服を着ていたからだ。小さな体にショートボブの髪。いかにも普通のかわいらしい中学生だ。 そう、中学生だ。  そう気付いた瞬間、笹原の体は強張った。からかわれているのか、それともこれは一頃流行った援助交際と言うやつか。こんな真昼間から。桜の名所の観光地で。  どちらにしろ気分のよいものではない。 「あ、お兄さん」  笹原が何も言わずに背を向けると、その娘は軽く引きとめるような声を上げた。それを無視してその場から立ち去る。  目をあわせない方がいい。こういうのに関わると、ろくなことがない。  娘もそれ以上は追ってこないようだった。  せっかくの花見気分が台無しだな。  笹原は、気分を変えようと空を振り仰いだ。晴れた空には桜が満開だ。さすが地元の人たちがこぞって見に来るだけはある。  なにやら黒いかげが頭の上を横切った。烏のようだ。それを目で追うと、先ほど中学生に声を掛けられた御堂の屋根の上に降り立った。  娘の姿はそこにはもうなかった。  花見に出るのは気分が重かった。なんせ、昨日半日上がりを幸いにふらりと花見に行き、変な女子中学生にからまれそうになったばかりなのだ。とは言っても、新入社員の分際で先輩方のお誘いを断ることなどできるはずがない。 「笹原くんは足利の人じゃないから教えてあげるけどねえ。足利は桜の名所が盛りだくさんなのよう」 そう言ってはしゃぐのは、植村という四十代のパートの女性だった。 「なかでもおすすめは大日よ。正式には鑁阿寺って言うんだけど。知ってるかしら。けっこう有名よ」  盛りだくさんな中で、なぜわざわざ昨日の場所を選ぶのか、とやつあたりに思った。 「昨日行ってみましたけど」
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