神助け

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 覚えていたはずだが、昼間とは景色が違うのでなかなかみつからない。探すこと数分。 「おおい、笹原あ、そろそろ漏れちゃうぞ」  漏らすくらいなら、そこで立ちションしろ、と言えるほどまだ親しくない。しかも名刹で立ちションして警察に捕まることほど情けないことはない。「二手に分かれますか」とだけ言って、その場を十歩ほど離れた。その時。 「突然すみません。私の処女喪失にご協力お願いします」  声が聞こえた。またあの中学生のようだ。  その声のする方に顔を向ける。今度の相手は、スーツをぴしっと着た、真面目だけれど気が弱そうな小太りの中年男性だった。  なんでこんな所にスーツ着て一人でいるのか、と疑問に思ったが、笹原と同じく会社帰りにふらっと立ち寄った地元民かもしれない。  どうせ、また無視されるだろう。そう思い、その場を立ち去ろうと踵を返しかけて、そのまま固まる。 「いくらなの」  野太い声が飛んできた。  思わずもう一度振り向く。境内には木が多く植えられている。二人は全くこちらに気付いていないようだ。  男はスーツに手を入れ、財布を取り出した。中身を確認しているようだ。困ったような男の顔を見るに、あまり持ち合わせがないようだ。  おいおい。マジか。こんな人目もある観光地で中学生買うとか、正気かよ。  あきれて物も言えない。供給というのは、需要があってこそ成り立つものだ、と学校の授業のようなことを考えた。  いつまでもこんなものを見学していても仕方がない。かかわり合いにならないうちに立ち去ろうと考え、今度こそ歩き出す。ちょうど中学生の横顔が見えた。  暗くてぼんやりとしているが、見えた。  笑顔を作ってはいるが、強張っていた。 「まあ、後払いでいいよね」  どうせガキ相手だ、やり逃げしてやれ、というのが丸わかりだ。一見優しそうな顔をしてそう言うと、中学生の手首を取った。 びくりと彼女の体も強張るのが、見えてしまった。 「何やってんだ!馬鹿」  気付くと怒鳴っていた。その言葉に、やっと二人はこちらに気づいたようだ。  中学生はぽかんとしている。男はびくっとして気弱そうな表情でおどおどとこちらを覗う。しかし、すぐにその顔は獰猛なものに変わった。  まずいな。反射的にそう思ったので、そちらにつかつかと歩み寄った。そして、ぽかんとしている中学生の頭をはたいた。
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