神助け

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「遊ぶ金が欲しいんだか好奇心だか知らないけどな。今のおっさん、あれな。絶対金払う気なかったぞ。それだけならいいけど、下手な男に声掛けてたら、誘拐されて、殺されたかもしれないんだぞ。ニュースとかでたまにあるだろ。あんまり大人を甘く見るなよ」  すると、娘は拍子抜けなほどあっさりと頷いた。 「ああ、なるほど。危ない所を助けていただいて、ありがとうございました。殺されるだけならまだしも、誘拐で身代金要求とか警察沙汰になったら何かと面倒ですもんね」  返事の内容が変だ。 「いや、そりゃそうだけど。なんというか。女の子なんだし、もっと自分を大事にしたほうがいいとかそういう意味もあるんだけど」  つっかえつっかえ言うと、彼女は「はあ」と気の抜けた返事をした。 「男の子は大事にしなくていいんですか。まあ、童貞に価値はないでしょうが、処女だって、若いうちだけでしょ。ある程度年いくとかえって重たく思われるらしいですけど。ああ、でも締りがいいっていいますもんね。やっぱ魅力あるのかな」  意味を理解するのに数秒要した。  最近の子供は、どういう教育を受けてんだ。 「おまえ、子供が、そんなこと」  言いかけ、やめた。子供だからこそ言えるのだ。こんなことで熱くなるのも大人気ない。女の子の言うことじゃねえよな、というのはひとまずおく。いい年して童貞だよ、どうせ価値ねえよ、と思ったこともひとまずおく。 「まあ、ともかく。もうこういうことはやめような」  語気を弱めてできるだけやさしめに言う。自分の妹なら怒鳴りつけてやるが、人様のお子様だ。優しく諭してやるのが筋だろう。それで改善されなければ、もう他人の知ったことではない。 「わかったな」 腰を屈めて顔を覗き込む。背が小さいな、というのは今さら気付いた。百五十あるかないか、といったところか。その小ささに、少し仏心が出てきた。 「家、どこだ。送っていってやるから」 夜八時にこんな境内をうろついているのだから、徒歩か自転車で帰れる所に住んでいるのだろう。この危なっかしい子供と一緒に、家まで付いていってやったほうがいいかもしれない。  年齢より子供に見えてしまったので、当たり前のようにそう申し出た。 「お申し出はありがたいのですが、やめといたほうがいいと思いますよ」  娘は小首を傾げて言う。何故かわからずに彼女の顔を見つめ返す。
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