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「こんな時間に女子中学生連れて歩いてたら、お兄さん職質受けちゃいませんか」
確かに。
というか、そこまで頭が回る子なのに、今までの言動はなんなんだ。
彼女はこちらをみつめ続けたまま、口を開いた。
「それとも、昨日の申し出、受けてくれる気になったのでしょうか」
「今までの人の話を聞いてなかったのか、アホ!」
淡々と言われて、思わず素で怒鳴り返し、頭をはたく。
「ひどいっ。お父さんにも叩かれたことないのに」
「知るか。最近の子供はみんな親に叩かれた事がないんだから、ちょっとは他人に叩いてもらえ。ご両親に感謝してもらいたいくらいだ。だいたいな」
「いや、それ無理です。うちもう両親いないし」
怒鳴ろうとした口の形のまま動けなくなる。さらりと大事なことを言われたようだが。
彼女の方が気をつかって話を続けた。
「先月、亡くなっちゃいました」
続けるべき言葉が見つからない。ドラマとかでよくあるパターンだろ、何か気のきいた台詞を。
「えっと、それで、やけになってこんなことを?」
もしくは、さびしい貴女に、とかいうやつか。気が利かないどころかこれでは詰問だ。そう焦るが、彼女はきょとんとした。
「へ?なんでです。ていうか、あたしいたって大真面目ですけど」
言葉遣いが少しくだけてきた。しどろもどろになったから、見くびられたのだろうか。
「じゃあ、なんだ。もしかして、本気で金に困ってるのか」
少しつっけんどんに言ってしまい、さらにあせる。説教始めてどうすんだ。
「え、別に。ていうか、どっちかっていうと、うち、お金持ちだし」
大金持ちの祖父母に引き取られたとか、そんなところか?じゃあ、それならなんで。それを聞きたいと思ったが、理性がそれを押し留めた。見ず知らずの、そして多分もう会うことのない子供の家庭の事情を聞いても意味がない。
そう逡巡しているうちに、彼女は難しい顔になった。
「だから、もちろん謝礼は弾みます」
再び声は淡々としている。
「は?なんの謝礼だ」
何の話をしていたのだったか。
「あたしの抱き賃です」
「だきちん?」
意味がわからない。
「今のところ、五十万ほどを予定しています」
何かリアルな数字が出てきた。
「ただし、一回だけです。あとはお支払いしません」
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