6022人が本棚に入れています
本棚に追加
方向を見失う
「はっ?香歩がどうしてここにいる?」
「…」
「無視すんな」
「…帰ったら‘ただいま’だよ、朱」
「…ただいま。で?」
「ご飯食べるでしょ?」
起こったばかりのことをまだ理解出来ず、言葉にするのは難しい。私はソファーから立ち上がると、キッチンで豚汁を温め始めた。
パタン…リビングの扉が閉まる音がしたので、朱は問い詰めるのを諦めて着替えに行ったのだろう。
「香歩、お前さ…飯温めてくれんのはいいが、自分は食ったのか?」
「…ああ…そっか…一緒に食べる」
「けっ、お前が飯を忘れるなんて重症かよ」
「…知らない。朱がやって…もう嫌になった」
「はいはい」
‘重症かよ’…図星かも…急所をつかれたようでふて腐れ、ダイニングテーブルの自分の席についていた真っ白い垂れ耳ウサギのぬいぐるみをパパの席へ移動させてから座る。私がいないと寂しいからとパパが席に座らせているウサギ…似てないと思うけど…
「鮭と長いものバター醤油焼きか、これ?このまま温めるか…」
朱が冷蔵庫からフードコンテナを出して、レンジに入れる。料理好きで得意なパパが仕事の前に作って行ったものだ。
最初のコメントを投稿しよう!