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「焼き肉」
「ハンバーグ」
「牛タン定食」
「豚のしょうが焼き定食」
「・・・・・・ビーフカレー」
「とんかつ!」
一週間に一度勃発するこの争いは、勝負がついたことがない。牛肉の好きな俺と、豚肉の好きな親友、沢裕介。食べたいものを言っているうちにこうなってしまった。沢は腕を組んで、わざとらしく難しい顔をした。
「・・・決まらねえな」
「この際肉から離れようぜ」
「いや、今日はがっつり食いたい気分なんだよ」
「間をとって焼き鳥にするか?」
「鳥は牛と豚の間じゃねえぞ」
「じゃあなににする?」
「う~~~~ん・・・・・・」
「・・・・・・わかった、もう沢の食べたいものでいいよ」
「飯島はさ、いつも最終的にはそう言うよな」
「俺は豚も嫌いじゃないから」
「俺だって牛さんへのリスペクトはあるぞ」
「リスペクトて」
俺としてはこの無駄な時間を短縮して、とっとと食事をしたい。
「上質な豚の油は尊い・・・・・・」
「わかったわかった、とんかつな」
「いやっほう!」
という訳で、俺たちはとんかつ店に入った。料理は美味しく、俺たちはもくもくと食べた。
ほとんど肉がなくなったころ、沢が言った。
「最近さあ」
「うん?」
「腹が出てきてて・・・ジム行こうかなって」
「上質な豚の油摂取してる場合じゃなかったんじゃね?」
「・・・・・・だから白飯を大盛りにしなかった」
「雀の涙よ」
「わかってるわい。明日からがんばるし」
「それ女子の言い訳」
「・・・・・・」
「つか、そんなに腹出てる?」
「ベルトの穴がひとつ外側に移動した」
「顕著だねえ」
「お前は俺と同じもの食って、何で太らねえの?」
「俺はひそかに努力をしています」
「えっ、なにそれなにそれ」
「ひそかにって言ってんだから」
「いいじゃん、教えろや」
「つっても大したことはしてねえよ。ひと駅手前で降りて歩くとか、階段使うとか」
「それだけで痩せんの?」
「痩せようとはしてない。維持」
「ほえ~~・・・飯島って昔からそういうとこあるよな」
「そういうとこ?」
「ストイックっつうか」
「とんかつとビールでストイックもクソもない」
「ははは、確かに」
俺はただ、お前が昔たまたま俺の腹が割れてるのを見て、「かっけえ」って言ったのが忘れられないだけなんだよ。単純なの。
そして沢は満面の笑みでこう提案した。
「じゃあさ、俺も明日からひと駅分歩く!一緒に歩こうぜ」
「その分食ったら同じだからな」
「むむ・・・・・・」
沢は名残惜しそうに、とんかつの最後のひときれを口に運び入れた。
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