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キャンパスの預言者
「絵筆の魔女、黄昏の占い師って呼ばれたお前もついにお役御免か」
私は魔女にも占い師になった記憶もない。ただ、美術部にはそう呼ばれる人物がいるらしい。
「好きな人がいる」
私は珍しく、人物画でも風景画でもないものを描いている。
「あぁ、そう」
そんなことを話してくるとは意外だった。首を突っ込むことはないが、ゴシップネタとしては面白そうだ。
「でも、長いこと一緒にいるのに気付いてもらえない」
「相手が本当に気づいてないか、
気づいてても面倒臭いから気づかないフリをしてるかじゃ?」
キャンパスは暗く濃い色に覆われている。
「お前は?」
「私は好意に気づいても、どんな種類の好意かは分からないし
そもそも誰かと生きることは苦手だから」
他人が居ないと生きていけないのが人間だが、それはそれとして、誰かと共に生きるということには向いていないのだ。
「あぁそうだ、気付いてるかどうかわかんないなら言ってみればいいじゃん。
気づいてたならハッキリ答えてくれるだろうし、
気づいてないならないなりに答えくれるよ」
黒の上に色を重ねる。
「まぁ、どちらにせよ答えてくれないなら人間として信用ならないけど。
そんな人間ならやめとけ、ってのが定説かな」
僅かな沈黙を破った言葉に、私は耳を疑った。
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