記憶

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もっと昔なら近所同士が助け合って子供を育てていたものだが、誘拐と言われてしまえばマサトの母も言い返せなかった。 しかも大家だからと言って合鍵を使って家に侵入しているのだ。 『子供が可哀想だから』、そこに嘘はないが、この子が驚くほど可愛らしい顔立ちで、手のかからない良い子でなければここまで世話を焼いたりしなかったかもしれない。 マサトの母が子供を家に連れてくることはなくなり、マサトは寂しい気持ちもあったが、それよりも安堵感が大きかった。 喋らず、静かで何も迷惑をかけない子供だったが、それがかえって子供らしくなくてだんだん不気味に感じるようになっていたのだ。 しかし 「ああ言われたけどねぇ、やっぱり気になるから」 とマサトの母はその後も時々様子を見に行っていた。
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