四、

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四、

「あれ……?」  落下生の殻の蓋が音もなく開いて、ヒロコはゆっくり起き上がる。 『落下生じゃないです』  細かいな宇宙人。……あ、レビオか。 「気がつきましたか?」  オオヒラ氏が話しかける。  ヒロコは周囲を見回し、自身が眠っていたベッドのような物を見下ろし、オオヒラ氏の顔を見上げて尚も不可思議そうな顔をしている。 「おお、ひら、……さん?」  カミナリ無しでも大丈夫なんだ。 『だから何を言ってるんです?』 「ここは……?」 「あ、すみません、私の宇宙船です」 「う、宇宙船っ?」  ヒロコちゃんは信じてなかったので。 『言ったじゃないですか、私、宇宙人なんです!』  本当に分かってないですね。 「分かりませんよ!」 「え?」  混乱してるな。 『……笑わないでくださいよ』  説明は明解にしてくださいよ。 「えーっと、ですね」  オオヒラ氏は泣きそうな顔をしている。  面白いったらない。 「おじさん、宇宙人だったの? マジで?」  ヒロコは冷静に正解を導き出す。さすが私の孫です。 「おじいさんだったんですね!」オオヒラ氏。 「おじさん?」とヒロコ。 「おじさん??」とオオヒラ氏。  ぐちゃぐちゃになってるな。と私。 『誰のせいですか』とレビオ氏。  オオヒラ氏は、落ち着いた様子で説明を始めた。ちょっと運転に失敗してヒロコちやんにぶつかって、ちょっと怪我をさせてしまったけども、どうにかきれいに治療できましたよ、と。 「え、酔っ払い運転ですか?」 「え?」 「あたし、どこを怪我したんですか? 治療したって、あたしに何をしたんですか?」  ヒロコが怖い顔をしてオオヒラ氏に迫る。  オオヒラ氏はおずおずと自身の頭を指差す。  ヒロコは頭のてっぺんに掌を乗せる。  両手で頭の形をさぐって、少しずつ青くなる。  三か月ほど放置したスポーツ刈り状態になっていた。  胸ぐらいまで伸ばしてキラッキラに巻いてた髪が、……いや、頭ごと無くなってたんだけどね。しかも私の運転で。よかった、生き返って。 「ど、どうしてくれんのよ!」  ヒロコはオオヒラ氏を責める。  レビオが哀れな目つきで私を見る。 「すみません、髪の毛はあと数分その中で眠っている間に戻せますから……」 「なんですかそれ? 証拠隠滅っていうことですか?! 轢き逃げとか死体遺棄とか、そういう犯罪者ですか?! 最低! 信じられない!」 「でも傷という傷はキレイに……」 「えー? あ、小学2年の夏休みに転んで右膝に出来た傷跡がある! ちょっと! なんでコレ消してくんなかったのよ?!」  ヒロコ、すごく怖いぞ。 「えー? ……じゃあ、その、お詫びに、何か……、贈り物とか、で、どうか……」  いい男だねぇ。何をプレゼントしてくれるんだい? ドンペリでも開けてくれるかい? 『どこの酒場の話ですか』 「なぁに? 贈り物か何かで安く済まそうっていうの? 赦さないわよ?!」 「えーー、あの、その」  レビオ氏はオオヒラ氏の後ろで唸っていた。 「では、何か、願いごとを叶えるというのは……」  おずおずと話す言葉にヒロコはニタ、と笑んだようだ。 「……じゃあ、ヒロトくんと恋人にしてくれる?」  ……唐突に何を言いだすんだか。 『え?』 「ヒロトくん、というのは?」  宇宙人は地球に来てからまだ浅いので、アイドルとか、推しとか、そういう存在は分からないと思う。ですよね? 『あ、はい』 「あー、宇宙人じゃ興味ないかな。あたしの絶賛推しアイドルの月城浩斗くん。もう、デビューした頃から死ぬ程好きなの!」 「へ、へぇ〜〜」  可哀想なオオヒラさんである。 「わ、わかりました。2日、待って貰えます? 取り敢えず、こちらでもう少し休んでくれませんか? 髪の毛、をですね……」 「えっ! 2日でいいわけ?」  もう怒ってもいない。  興奮してなかなか眠ってくれないヒロコであった。  翌朝、ヒロコは自宅のベッドで目を覚ました。  あの宇宙船は、このマンションの一室にも侵入した。が、まあヒロコはよく眠っていたから、内緒だ。
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