六、

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六、

 月城浩斗は、生まれてすぐ、とある教会の前に捨てられていました。  その教会が運営している施設にひきとられて、高校入試を控えた頃、五城(いつき)家に迎えられました。  月城、は舞台デビューからの名前です。  ヒロトは、外面と中身の違う子に育ちます。誰も好きじゃないって言いながら、でも、誰からも好かれたがる、という、まぁよくある淋しがり屋さんですね。 「おおきくなったら、ヒロトのお嫁さんになったげるね」  と3つ歳下のミリちゃんに告げられた時も、なかなかツンケンしてましたけど、それからずぅっと丸顔の女の子が好きで。あ、ミリちゃんのお母さんも丸顔で、なかなかの美人だったんですよ。  あ、ミリちゃんは交通事故で両親亡くして、3歳の頃にその施設、『椿園』へ来ました。あ、酷い事故だったそうなんです。庇った母親の腕の中で、ミリちゃんだけが生き残って、奇跡みたいだね、って言われながら、親戚の誰からも歓迎して貰えなくて。施設に来た頃はずっと黙って泣いてるか怒ってるか。  ヒロトは小手先の器用な子で、折り紙とか、粘土細工とか、なんかかわいいのを作ってはミリちゃんに、ほらほら、とか言ってご機嫌を窺うと、 「わあ、ヒロトすごい!」って感動するわけですよ。 「呼び捨てかよ」ってヒロトは不服そうに笑うわけですよ。  ミリちゃんは、それから少しずつ明るい子になって、施設の他の子たちとも一緒に食事したり遊んだりできるようになったんです。  そのミリちゃんはですね? 手を触れないで物を動かす事ができたんです。  最初は食卓からコップが落ちそうになったのを戻したぐらいだったんですけど、そのうちちょっと大柄の男の子を階段から落とせるようにもなりまして。私は驚いたんですが、ヒロトは気付いてか気付いてなかったんだか、顔色一つ変えませんでした。寧ろ嫌いな奴が転がっていくことに何ら心が動かなかった、ということですかね。  ミリちゃんを養女に、というお話があったのは、彼女が二年生に上がる年の2月でした。その頃から何だか、ヒロトと目が、よく合う気がしてました。 「おじさん、君をうちの子に欲しいんだ」とか、何度も園にかよっては話しかけてみるんですけどね。ミリちゃんはヒロトの後ろに隠れて、園長の後ろに隠れて、何ならベッドの下とかタンスの隙間に隠れて出てこないばかりで。  あ、そのミタさんっていうご夫婦は晩婚で、体力的にもこれから出産は命懸けになりますよ、って分かって。落胆してるところでミリちゃんに出会えて、生きる希望を見つけたような心持ちになったんだそうです。  いろいろ相談して、バーベキュー大会なんか催してミリちゃんと仲良くなる、なんてどうですか? っていうことになりました。  ところで初夏の頃、ですかねぇ、ダリヤちゃんって女の子が椿園に来ましてね。まぁ、何ていうか突然に。  いえ私知らない子だって思うんですけど、園の大人も子供も、みんなが昔からダリヤちゃんを知ってたみたいにしてるし、ヒロトも何も警戒してなくて。私だけが知らなかった感じで。あ、その前に誰も私を知らなかったんですけど。あ、私はヒロトの母親の父方の祖母です。  ダリヤちゃんはミリちゃんの1つ上なのに、ミリちゃんより言葉がたどたどしくて。まぁ、滑舌が悪い子、ということで落ち着いてましたけど。  そしてバーベキュー会の日がきて、借りたバスに乗り込んで、みんなで川辺のキャンプ場に出かけたんです。  ミリちゃんは、いつもよりもっとはしゃいでたんですけどね。 「ミリちゃん、嫌がってないよね?」  ヒロトは誰にともなく呟きました。  私はつい、そうよねぇ、と頷いておりました。
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