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そう思って立ち上がったあたしは、入り口のドアが開く音に振り返った。
ーーやっぱり、ここに居た……
スマホを耳から外して、あたしは一気に駆け出す。陽太だ。陽太がいる。
溢れ出てくる涙でもう顔はぐちゃぐちゃだ。前も歪んでよく見えない。懸命に涙を拭って、陽太の前まで辿り着くと、見上げた先の陽太の泣き笑いに安心する。
またぼやけ出す視界に、唇を噛み締めた。
「誰よりも一番に、水瀬さんに会いたかった」
そっと、陽太の腕に触れてみる。
あたたかい。ちゃんと生きている。手術、頑張ったんだね、辛かったね、苦しかったね、怖かったよね。
言いたい事がたくさんある。
頭の中で今までの想いが湧き上がってくる。
だけど今は、
「……陽太……おかえり」
精一杯の笑顔で、陽太のことを見上げた。
「ただいま」
オレンジの空が陽太の頬を血色よく染める。
夕陽は見えないけれど、あたし達は夕陽がどんなに綺麗か、知っている。
そっと、陽太を抱きしめた。
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