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1.別れ
状況は劣悪だった。
不意に足下に視線を落とせば、雨に濡れたアスファルトは黒々しく光り輝いていて、雨粒がいくつも跳ね返ってはあたしの足を濡らしてくる。手放して来た靴は片方しか履いていなくて、もう片方の足は黒のハイソックスが見る見るうちに雨を吸い込んでいく。
冷たさなんて、アスファルトに落ちる小石やゴミを踏む痛さなんて、微塵も感じない。
ただ、この心だけが、酷く息苦しく締め付けられるように、痛い。
傘もささず、濡れる髪も顔も制服も、全部何もかもが無になる。いや、そうじゃない。無になりたい。そう思っていただけ。
ようやく踏み出した足に、小石を踏む痛さを感じて、雨を受けた頬を冷たい雫と一緒に、生ぬるい涙が伝った。
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