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廊下を照らす柔らかい暖色のライトが、高級感を帯びた木目調の扉の気品を更に高める。
何十と並ぶ扉のうちの一つの前で立ち止まったシオリは、右手の甲でこんこん、と二回ノックする。人間の骨で鳴らすそれと大差はない。
やがて扉が内側に向かってゆっくり開かれると、彼女は右手を挙げて「おまたせ」とにこやかに挨拶をした。
「あなたにここにいてもらったのは、事件解決に必要な罠を張る為。あとは万が一を考えての保護。この二つが大きな理由。退屈した?」
「いえ……まぁ、何が起きてるのか分からないので、落ち着きはしませんでしたけど」
國本はほとんど二十四時間を豪奢な檻の中で過ごさせられたことについての意見を率直に述べた。
「ごめんね。大事なことだったから話せなかったんだ。もう終わったから出てもらっていいんだけど、ごめんなさいの代わりに良いニュースを持ってきたよ」
核心に触れているのかいないのか、今ひとつ判然としない彼女の語りに國本は僅かに首を傾げる。
シオリはそんな國本の胸中を察しようともせず、眼を爛々と輝かせながら両の掌を國本に向けて何も持っていないことを暗に示す。
一切の無駄がない、しなやかな腕の運びで國本の視線を確実に誘導し、その隙に袖からトランプを一枚抜き取ると、それを差し出した。
唐突に始まった手品に気を取られた國本は恐る恐るトランプを受け取り、それを裏返す。
中央に小さく道化が描かれたそのカードには、この近辺にある大きな病院の名前が添えられていた。
「これは……?」
「福山 沙織さんの居場所。行ってあげて。きっとあなたなら、力になってあげられるはず」
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