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 「瀬谷さんっ、シオリちゃんっ」  しばらくして、先に到着したのは牧田だった。  彼女は規制線をくぐると小走りで瀬谷の元へ駆け寄り、彼に張り付いて離れない警官に手帳を見せる。  警官はそれでもなお不承不承としていたが、最終的には怪訝な視線を残して去っていった。  「牧田巡査だー。おはよう」  「助かりました」  「い、いえ。ご迷惑を——それより、詳しく聞かせてもらえますか。何でここに……」  ようやく束縛から解放された瀬谷は掌で公園の奥を示し、現場へ進むよう促す。  それを視るなり、シオリが阿吽の如く先を歩き始め先導を担った。牧田は黙ってその後に着く。  背後を歩く足音が聞こえず何気なく振り返ると、瀬谷はその場に留まったきり微動だにしていなかった。  「案内と説明はシオリから。僕はここで尾崎さんを」  そう言うと、彼は三十度ほど腰を折り曲げた。  「眠い?」  「う、うん。寒い……ですね」  「へ?」  彼らの素性を多田から明かされてから半日も経たないうちに二人きりになり、理解が整いきらない牧田はシオリとの接し方に悩んだ。妙な気を張ってしまい、ぎこちなさを感じてしまう。  多田の口ぶりからは、恐らく自分が彼女らの素性を知っていることはイレギュラーである可能性も高い。  そう思うと余計に緊張感が増し、動揺が表れてしまいそうな不安に駆られた。  ——大丈夫、今まで通りにしてればいい。そう……平静を保つ。それだけ。  「聞いてる?」  「ひゃいっ……え……? す、すみません……ちょっと考えごとを、してました……」  二秒前の決意も虚しく、牧田はこの上ない動揺を含んだ返事をした。猛烈な羞恥が全身をくすぐる。  「あはっ、ひゃいだって。全然話聞いてなかったけど大丈夫?」シオリはけたけたと笑った。  「ごめんなさい……大丈夫です……」  「次は聞いててねー」  「まず昨日、お昼に國本さんと会ったの。それで幾つか質問して、まずここに来ることに決めた。“木を隠すなら森の中”、“桜の樹の下には死体が埋まってる”って感じで。そしたらー……、ほらあの光ってるとこ。あそこにおっきい桜があったの」  シオリはここから一段上がった盛り土の上を指差した。  論理性の欠片もない、そもそも推理として破綻している言葉がぽろぽろと飛び出てくる。本来なら一笑に伏すまでもないただの戯言だが、牧田は黙って続きを聞いた。  「その樹の下の地面を調べたら他の土と地質が違うのが分かって、それで瀬谷に掘ってもらったの」  「地質が違うって……?」  「例えば、今歩いてるこの土。この表面はとても自然なもの。太陽に当たったり雨に濡れたり、落ち葉が腐ったり虫や微生物が食べて分解したり、その虫の糞とか死骸もそう。それが自然に堆積した結果がこの地表環境を生み出した」  彼女は地面を強調するように途中で跳ねながら、二人が歩いている土の組成を噛み砕いて説明する。  そうこうしているうちに、人骨が発見された件の樹へ辿り着いた。  三台の投光器に照らされた深さ二メートルほどの大きな穴を幾人もの捜査官が取り囲み、各々やり取りを交わしている。  中には牧田の見知った顔もいた。  「でもね、この樹の辺りの表面はそれが極端に乱れてたの。日照時間も栄養素もバラバラでガタガタ。明らかに他の土と違う年代のものがごちゃ混ぜになってた」  「ええと、つまり……?」  「だいたい百年前の土が、ここ数年で掘り起こされて表面に積もってたってこと。そうなると、埋まってるものは死体かタイムカプセルくらいでしょ?」  「そんな……」有り得ない、と言いかけたが、彼女の眼下に遺体が埋まっていたのは紛れもない事実だった。  根拠のない推論と、にわかには信じ難い暴論を同時にぶつけられた牧田は、それらを咀嚼し理解するのに精一杯で、シオリが探すと意気込んでいた人物を思い出すまでに数秒の時間差が生じた。  遅れて、最悪のシナリオが脳内を無秩序に駆け巡る。  「そんな、まさか……じゃあこの遺体って——」
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