虚偽

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 くどくどとうざったい津島の説教に相槌を打つ度、頭蓋の内外を巡る血管がぷつぷつと弾けて破れる感覚に陥る。  それでも辛うじて理性を保ちつつ、ようやく言い包めることに成功した。  『こっちの状況はこんな感じだ。で、お前今どこにいる』  ——代々木公園で見たあいつの名前がクニモト? 確かに上の名前は聞いてなかったが。  午前中のニュースも、こぞって“第三の犯行”だとしている。  最も腹立たしかったのは、死んだ探偵の片割れが何食わぬ顔でテレビに出て、同一犯だと力説していることだった。  彼の予想では、探偵を殺したのはあの片割れであるはずなのだ。  その怒りに油を注いだのが、津島に繋いだこの電話の内容だった。  発信された情報の一切をありのままに捉える世間ならまだしも、犯罪捜査のプロフェッショナル集団ですら断定しきれていないという事実は、男の心中を著しく掻き乱した。  捜査本部は同一犯の線を捨てていない。  この判断を滑稽に思うのは、本物の十字殺人鬼の犯行ではないことを確信しているからだろうか、と首を捻る。  ——あんな出来損ないと僕の芸術が同じだと? ふざけるなよ。  『おい、もしもし?』  その呼びかけで彼は我を取り戻し、首都高速新宿四号線を走る車からスマートフォンを放り投げた。  物理的な距離と走行音で、落下し、砕け散る音は聞こえない。  捜査本部の方針が確認できた時点でもはや用済みであり、それ以上にリスクの塊である。  誰彼構わず電話をかけられるのも煩わしく、何より位置情報で居場所を割り出されては、潜伏という名の静観を選んだ意味がなくなってしまう。  彼は迷うことなく身を隠す場所を定め、そこへ向かって首都高速を飛ばしていた。
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