アマンダ(仮)

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 広い窓から差し込む明かりは少なかったが、歩ける程度には存在していた。星明りと、ホテルの荘厳な石造りの外壁にその趣を壊さないように取り付けられた、細かい細工の施された鉄製の外灯の明かりだ。寝室に入ると窓辺のテーブルにコートと鞄を置いて、ほっと息を吐きながら椅子に座った。  ロバートが勤める母国の大手自動車メーカーが、この国の中堅自動車メーカーと手を組んで、この国での新型自動車の開発販売の計画を進めている。発売予定は来年の春で、今は十月だが、ロバートは二週間前になって急遽このプロジェクトに企画本部のチーフとして足を踏み入れることになった。いきなりの人事異動でこの二週間働き詰めだ。体力も使うが、今は慣れない言葉にも気疲れしている。  今やっと一段落ついたという気分で、ロバートは空港で買った煙草に手を伸ばした。  高密度フィルターのついたメンソールという表示のある地元産の煙草だが、吸ってみるとまったくミントキャンディーでも舐めているようだった。本当に煙草かなという疑問を心に浮かべて、それでも確かな煙を口から吐き出す。暗い部屋の中、明かりの当たる部分だけが紫煙と現われ、周囲に拡散して行った。
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