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ロバートは言った。
「そこで、何をしてる?」
少しの間を空けて、女は聞き返してきた。
端的な、呟くような口調だった。
「私?」
「そう、君だ」
「私は、つまり」
「つまり?」
「あ……、あなたは?」
「僕?」
「そう、あなた」
「僕はこの部屋の宿泊客だ」
「宿泊客。おお、ええ、そう。宿泊客よね」
「そう、客だよ」
「名前は?」
「名前?」
「そうよ、名前」
「ロバート……、いや、待ってくれ、一体これは……」
「OK、待って、判ってるの」
女はロバートに向けて右手を広げて見せながらそう言う。
「僕はさっぱり判らないよ」
ロバートは多少苛々してそう言ったが、横たわったままの若い女を見つめていると、素直な怒りが込み上げてこなかった。
やっと落ち着けると思った部屋に見も知らない先客がいるのだ。これが男だったらとっくに002をコールしているだろう。指に持っていた煙草を、とりあえずテーブルの上の灰皿に押し付ける。
ロバートの感情を逆撫でしないように気を付けているのか、女は若干視線に動揺を表し、軽く頷きながら続けた。
「ロバート・ジョーンズね」
「どうして僕の名を?」
「聞いたのよ」
「誰に?」
「だから、マネージャーに」
「支配人に?一体何なんだい?さっぱり訳が判らないよ。まさかこの国では予約したホテルの部屋に女が付いてくるのか?そりゃここでは禁煙法もなければ幾つかのドラッグも自己責任の名の下で違法にならないことを知ってるし、売春も合法だと知ってるよ。それくらいの予備知識はあるけど、でも、まさか部屋に女がついてるなんて、そんな非常識な」
「あら、普通よ」
女は少し慌てるように、ベッドの上に膝をついて身を起こした。
「つまりこれは、この国の常識なの。こんな広い部屋を予約したんだもの。当然だわ」
「まさか?」
「初日だけだけどね」
ロバートは眉をしかめる。嫌味を含めた冗談を言っただけだったのに、そんなバカバカしい話があるだろうか?
「確かにスペシャル・スウィートを予約はしたけど、そんなことって、スペシャル過ぎるだろう」
「だって、普通のことなんだもの。ごめんなさい、驚かせて。あ、今何時かしら?」
「十一時を過ぎたところだ」
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