アマンダ(仮)

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アマンダ(仮)

 入国すると休む間もなく、ロバートはその足で取引先の社に向かった。  本社での初日の用件を済ませ、自動車部品の工場を見学し、販売促進チームとのミーティングをこなし、立食パーティーに出席し、やっとホテルの正面玄関に到着したのは十一時に近い時間だった。  フロントで名前を告げると、先に届いた荷物は既に部屋に運んでいると丁寧な口調で教えてくれた。手荷物とコートを持ってベルボーイが部屋まで案内してくれたが、ドアを開けてもらうとロバートは廊下で荷物を受け取った。 「後は自分でやるから」  そう言うとベルボーイは素直な笑顔で承知し、室内の電話で002をコールすればコンシェルジュに繋がると言い残して立ち去ろうとした。ロバートは呼び止めてチップを渡そうとしたが、彼は我が国ではチップの習慣はありませんと嫌味のない態度で断った。名を聞くとミシェルと言った。ロバートは礼を言い、まだ明かりのついていない室内に入った。
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