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Epilogue 私になかった幸せ
窓から差し込む光は清々しいほど輝かしい。
小鳥のさえずりも聞こえてくる。
まるで私の門出を喜んでくれているよう。
少し重たいドレスにも慣れてきて頭も重いと思わなくなってきた。
ただ毎度着る時には緊張するのだけれど。
今日は黄色い赤いドレスをまとっている。
私が世話係として着ていた服の色が赤だったから私はその色を選んだのだ。
今日の晴れ舞台にふさわしい色だと私は思っている。
「ティーナ、入るぞ」
窓辺に立っている私の後ろに気配を感じる。
そこにはザーラ様が立っていた。
ザーラ様の佇まいはとても綺麗で華麗だ。
服装もいつもと違ってタキシードがザーラ様の端正な顔に似合っている。
「なんだ、じっと見て」
「いえ、お似合いだなって思って」
私の言葉にザーラ様は少し目をそらして顔を赤らめる。
いつまでも不器用な人だと思う。
それでも私を救ってくれた人。
そして私に恋を教えてくれた人。
不器用になんて勝てないくらい愛おしいのだ。
「ティーナも似合っているよ、その……」
柄にも似合わない。
そんな言葉が浮かぶ中、必死に言葉を選んでいる。
だから私はザーラ様に近寄って頬に手を伸ばした。
その頬を引き寄せて口づけをする。
一度だけの触れるだけキス。
それでも全てが伝わるような口づけだった。
「私はザーラ様に出会えなければこんな幸せな人生を送れませんでした。偽りだらけの生活にもしかしたら生きていなかったかもしれない。でもあなたに会えて私は幸せになれた。こんな幸せどこを探してもありません」
笑ってザーラ様を見つめると、どうしても視界が滲んでしまう。
こんなに世界が輝くと思っていなかった。
全てこの方のおかげなのだ。
救い出してくれたから今がある。
するとザーラ様が手を握って頬の涙を拭う。
「俺もこんなに幸せになれると思っていなかった。それに俺たちの物語はこれからだ。だから二人で歩いていこう」
私の前に膝をついてザーラ様は私を見上げる。
一度手の甲にキスをしてから。
「俺と結婚してください。一緒に幸せになってください。ティーナ」
また視界が滲む。
この人は私の胸を掴むのが得意だ。
だから私もザーラ様に視線を合わせて笑った。
「はい。幸せになります」
二人の間には微笑みと小さな幸せがその場を包んでいた。
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