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耳が人の声と楽器の音で占領される。
そこに心臓の音が加わって、私の鼓膜は脈を打つような揺らぐ感覚に襲われる。
目の前には多くの人。
その身なりは彩り豊かで、王族の服を着ている華やかな人。
商人なのか大声で呼び込みをしながら、笑顔を見せている人。
そして楽器隊、芸隊と奇抜な服をした私たち。
その中の私は踊り子。
今日はこのエスティア大陸を治めるライアン帝国の王城主催の祭りが開かれている。
その祭りは王都に及ばず近くの村や街にまで影響してくる。
私の住むアーリス族の村だって王都から程遠いのに祭りを聞きつけてくるのだから。
その王城主催の祭りにアーリス族は芸を見せる役割で出席することになったのだ。
でも本来の仕事はそれではない。
「ティーナ」
私の名が呼ばれる。
私はティーナ。年は18歳。やっと成人することができたばかりの若造だ。
私を呼んだのはアーリス族の長、バル。
私たちはバル様と呼んでいる。
「はい、バル様」
バル様は私に近づき、耳打ちをするように静かに言う。
「よいか、任務を果たせ。さすれば母の命は助かるであろう」
母の命。任務。
18歳の私には重たすぎる。
でもやるしかない。
任されたこの命を。
「やることは一つ。王子から力を奪ってこい。その薬の力を使って」
手に握らされた袋。
この中に入った粉を使って私はこれからの運命を変える。
この輝かしい王都に。
底の見えないこの国に。
近づくのだ。
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