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会場からどよめきが起きる。
私の心の中もぐちゃぐちゃだ。
こんなにも計画通りになるなんて。
この粉はとても恐ろしいものだと実感する。
一方、リロン王子は私を一直線に見ていて、他の者など目もくれない。
いざこの場面になって怖気づいている私と熱い視線を送っているリロン王子の間に声が入る。
「王子、今ここでそのような発言はよろしくありません!」
慌てた様子でリロン王子を止めようとするのは側近だろうか。
身なりもしっかりしていて、慌てていても私への配慮を忘れず一礼する。
「だが、私はこの者に惚れたのだ。何の文句があるんだ」
「しきたりという言葉もございます。それに身分もわからない以上、このまま話すのは……」
「では、世話係とでもよろしいのでは?」
私たち三人のやり取りに口を出したのはバル様だった。
バル様は王族の側近に対しても変わらず平気な態度をとっていた。
どれも周到な用意がされているからだろうが。
「そうだ。世話係は今いないではないか。そこから身分を洗っていくのも悪くはない。どうだ」
リロン王子は王子らしくない口ぶりで提案をしている。
不安を覚え始める私の手をバル様が強く握った。
それは安心とか勇気をくれるものじゃない。
成功しろという命令なのだ。
「うむ。でも世話係は次々にやめておられますし。いや、逆にその方が……」
側近はぶつぶつと独り言を始めた。
その中で次々にやめるという言葉に恐怖に似た感情を覚えるが、心の中で無視をする。
「わかった。とりあえず、リロン様と、えーと名前は?」
視線が注がれ、一礼をしながら華麗に答える。
「ティーナと申します」
「よし。リロン様、ティーナ様はこちらへ。あなたはもう下がってください。ティーナ様の芸隊は即刻、引き下がるように」
「承知しました。ティーナは預けていきますぞ。我々は旅がありますゆえ」
「いや、身分確認をしなければ……!」
側近が振り返る頃にはバル様たちは退散の準備をしていた。
王子をとるしかないという側近の命を利用したのだ。
私は残される。
そんな過酷で残酷な状況になるとも知っていて。
「ずいぶんと勝手な芸隊なのですね。良いのですか、このままでは戻れませんよ」
側近から注がれた目は思案する目だった。
城の人の方がずっと優しいかもしれない。
そう多いながらも私は用意された待遇や対処でその場を乗り切る。
「私はあそこで生まれ育ったわけではありません。一時的に雇ってもらった身ですので仕方ありません」
「……そうですか」
その時に感じた二人からの憐れむ目は二度と忘れないだろう。
生まれてから初めて傷を知ってもらえた嬉しさとして。
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