王子の器

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「さてと、いろいろ教えていかなくちゃね。明日から私についてきてもらうんだから。もちろん、王子と直接会うのはその後よ」 ベラはどこからか紙とペンを取り出して、図を描き始めた。 それは城の配置のようでしっかり書き込まれていく。 「はい、これがざっくりした地図。ここに書き込んでいくも良し、あとはこれに書くのも良し」 そう言って真新しい新品のメモ紙とペンを用意してくれる。 いつの間にと言いたいところだが、ベラに突っ込む暇もなく話が繰り広げられる。 「三階が主に使う場所ね。王子の部屋と私たちの部屋。図書室や倉庫なんかもあるわ。二階は王と王妃のいる場所。一階は執務室や訓練場とか男がよく使う場所ね」 ベラの渡した地図には王子、それぞれの名前が入っており、部屋が確認できるようになっている。 おそらくこの地図は世話係として教えられたものだろう。 そう思うと、この地図の扱いが慎重にならなければいけないことがわかる。 「あとは礼儀だけど、基本私たちは王子のことを様って呼ぶのよ。王子って言っても五人いるからね。誰が国を継ぐ王子だとかなっても困るでしょ。まあそんなことで困る人たちじゃないんだけど……」 もう一度地図を見ると、私の部屋から一番遠いのは今日、惚れ薬の効果を使ったリロン様。 一番近いのが、第三王子ザーラ様だ。 王子のことをまるで知らない。 ましてや顔まで知らない私が世話をするのだ。 でもきっと世話という世話じゃない。 彼らを世間に親しめるためのいわば教育係なのだろう。 それからベラは私に礼儀を叩き込んでいった。 目まぐるしいほどの礼儀にため息をつくとベラは笑って励ましてくれる。 その度に言う、「王子前にしたらそんなことしないから」という言葉はひっかかるが。 そして城にいるための知識を身に着けたのだった。
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