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「お主、忘れてはおるまいな」
頭を裂くような痛みと共に、声が聞こえる。
声を聞く限り、バル様だ。
「バル、様……」
冷酷で人の温もりを感じないような声と言い方に寒気や恐怖を感じる。
頭を抱えながら部屋を見回すと、窓から見える外の景色の中にバル様の顔が映しだされていた。
「警備が強化されたのはお前のミスだ。王子たちに気づかれたのであろう。ならば問答無用。今すぐに力を奪うのだ。検討はついているのだろうな」
警備が強化されたということはザーラ様達が私を守ろうとしてくれているのかもしれない。
それでもバル様はそれを破って私にきつく問いただしている。
この人からは逃げられないのか。
力はそんなに強大なのか。
「バル、様。力は、見つけて、おりま、せん。それに、力を、どう奪うか、それも、私は……」
「簡単なことよ。殺せばよい」
その言葉を聞いた瞬間、痛みなど忘れるほどの衝撃が走った。
王子の誰かを殺す?
そんなこと私にできるはずがない。
だってあの人たちは……
次々に王子たちの笑顔が浮かんでくる。
リロン様、ライド様、ザーラ様、イース様、ミルロ様。
全員が平和に、そしてやっと協力できるようになってきたのに。
「できません」
「お前、母の命を忘れたとは言わせんぞ。それに城に嫁いでみろ。身元を洗われるだけだぞ」
現実の言葉が私の夢のような時間に終わりを告げ始める。
「ティーナ。どうかしたか?」
遠くでザーラ様の声が聞こえる。
それと同時に頭に痛みが走る。
「いいか。力を見つけ即刻に奪え。お前はそのための人形だ」
どんどん消えていくバル様の声と顔。
でも痛みは鋭く残り、頭を抱え涙まで出てくる。
「ティーナ?」
「ザーラ、様……」
そこで私の体に限界が来た。
立っていることもできずにその場に倒れこんだ。
「ティーナ!」
駆け寄ってくるザーラ様が遠くに感じる。
そのまま私の意識は途絶えた。
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