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温かな手の温もりを感じる。
それに頬にも愛しいと思うような温もりがある。
この温もりに溺れていたい。
目覚めたくない。
でも本当に目覚めなくていいのか。
私のやるべきことは何なのか。
そんな言葉が頭に残っていく。
苦しくて声をあげたくなる。
そんな私を誰かが呼んでいる。
これは私の名なのか。
私の名のようで本当の名ではない気さえする。
「ティーナ」
一度、はっきり聞こえた声。
その声が意識を導いていく。
目を開けるとザーラ様の心配そうな顔が映った。
「ティーナ! よかった目が覚めて」
声も出ない私にザーラ様は頭をゆっくり撫でてくれた。
何も言わず、ただ温もりを感じられるだけの時間。
「……前にも」
「え?」
「前にもこんなことがあったような気がします」
そう前にもザーラ様に頭を撫でられて、その時私は身構えていた。
なぜだろう。
ザーラ様はこんなに優しいのに。
でも違う。
あの時は襲われたわけじゃない。
確か……
「ティーナ、起きれるか?」
ザーラ様は身を起こす私を支えてゆっくり体を起こしてくれる。
その次に手を差し出して私の手を掴む。
ゆっくりと立ち上がった私の足に手を入れ込むとさっと横抱きにしてしまう。
「ザーラ様!?」
何も言わずにどこに行くのかと思えば、部屋の窓の近くに椅子を用意してあった。
そこに私を座らせると向かいにザーラ様も座った。
「ティーナ、ここにいろ」
私の沈んだ心をまたもとに戻してしまう不思議な言葉。
でも素直に受け取れない。
「ですが……」
「言っとくが俺は離す気なんてないぞ。俺は、誰よりも先に好きになったのだから」
その瞬間、所々消えていたパズルのピースが埋まるように視界も頭も済んだ景色になった。
前にも言われていた。
どうして思い出せなかったのだろう。
それにこの胸の高鳴りと温かさは他の王子とは違う。
その時にやっと気づくことができた。
私はザーラ様が好きなのだと。
「その言葉、前にも……」
「記憶、戻ったみたいだな」
私が今までわからなかったことをザーラ様は当然のように言った。
ザーラ様の浮かべる微笑みには嬉しさのような綺麗な光がまとっている気がした。
「ティーナ、お前の好きな奴は誰なんだ」
次にザーラ様が口を開いたときは真剣な顔つきで、私をじっととらえていた。
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