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紋章を見たとたん、目が見開き、体が固まる。
ザーラ様が力の持ち主……?
その一瞬で私の目の前は真っ赤に染まった。
自分の体が乗っ取られたように。
気づけばザーラ様が私の下敷きになり、目を見開いている。
「ティーナ、その目……」
言葉を返したいのに返せない。
自分の体なのに操ることすらできない。
それどころか、手はザーラ様の首元に伸びている。
やめて!
そう心の中で叫んでも、苦しい顔をしているつもりでも手は止まらずにザーラ様の首元に手がかかる。
一瞬でザーラ様が苦し気な顔をするが、声は上げない。
ここで声をあげこの状況を見たら私は確実に牢獄行きだ。
こんな時までザーラ様の優しさを感じてなどいたくない。
せめて私がここで滅んでしまえば、ザーラ様は助かるのに。
手にかかっている力は中途半端な力じゃない。
ザーラ様も対抗するのにやっとの状態だ。
嫌だ! ザーラ様に死んでほしくない!
心の中でそう叫んだ。
必死の抵抗で首元にある手の力を緩めようとするのと同時に胸にあった温かさを思い出す。
お願い! 殺さないでぇ!
するとなぜか一瞬だけ力が弱まった。
その一瞬をザーラ様は見逃さなかった。
私の顔を引き寄せ、唇と唇を重ねる。
強引に口が開けられ舌が入ってくる。
その感覚にしびれを感じて体の力が抜けていく。
それと同時に首に何かがかかった。
苦しく痛いほどの力がおさまり、目を開けると視界は元に戻りやっとザーラ様が見えてくる。
「ごほっごほっ」
ザーラ様が苦しそうに息を咳をされているのを見て咄嗟に手を伸ばしかけた。
でもすぐにそれを自分のもとへ引っ込める。
ザーラ様を苦しめたこの手で何ができるというのだろう。
私は人を一人殺しかけた。
愛する人を。
私を信じてくれる人を。
助けようとしてくれている人を。
「ティーナ」
その声にこたえることはできなかった。
涙が溢れ、手は赤くなっている。
苦しめたくないのに、苦しめた。
愛する人を失うところだった。
もう嫌だ。私は……
「ティーナ!」
その言葉と同時にまた温かい温もりに包まれる。
「自分を責めるな。お前は悪くない」
「でも…… 私、ザーラ様を」
手が震えるのがおさまらない。
声も体も震え、全てが信じられなくなりそうになっている。
「ティーナ、よく聞いてくれ」
ザーラ様は私の肩を掴むと、まっすぐに私を見た。
首は赤くなっているのに真剣な顔で私の心に届けようとしてくれている。
「ティーナの胸にある首飾りがある限り、もう一族の能力が使われることはない。保障する。だから今日はゆっくり休もう。俺は平気だ。言ったろ? ティーナも俺たちも滅ぼされたりなどしないと」
胸元にある首飾りは白い光を放っていた。
どこか懐かし気のある光だった。
「今からちゃんと話そう。昔あったこの城の事件の話を」
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