決戦の夜

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履きなれないヒール。 丈の長い淡い赤い色のドレス。 首元が寒く感じるアップの髪型。 頭には重たいティアラまで乗っている。 普段はみつあみを下ろし、使用人の格好をしていたのだから違和感しか感じない。 舞踏会が開かれるまであと三時間。 少しずつ時間が迫ってくる。 それでもザーラ様は顔を見せなかった。 そのことが気がかりでせっかく着飾ってもらっているのに全く頭に入ってこなかった。 そもそも最初に聞かされていたのは舞踏会にはならないということ。 だからマナーなども本気で覚えたとはいえ完璧ではない。 そしてそれを知っているのは王子たちだけ。 今日はアーリス族まで来てしまう。 もし舞踏会でまみえてしまったらきっと私は殺されるか操られるかに違いない。 自分たちを知っている人間を放っておくような一族ではない。 「どうしたの? 落ち着きないわね」 ベラは先ほどから一緒にいてくれるが、彼女は何も知らない。 私がザーラ様を殺しかけたことすらも。 だから作ったとわかっても薄い笑いしか浮かべることしかできなかった。 「ベラ、ちょっといいか」 私たちのいる部屋の外からライド様の声が聞こえる。 「わかったわ。ちょっと行ってくるわね」 その言葉と共に、ベラは行ってしまう。 それと入れ違いに入ってきたのはザーラ様だった。 「ザーラ様」 「綺麗だよ。ティーナ」 そう言って私の前に座り、指にキスをする。 数秒私を見つめた後、私の手をとったまま立ち上がった。 「さあ行こう」 「え?どこへ」 会場までは三時間もある。 会場には誰もいないはずだった。 でもそこで今までの会話を思い出す。 舞踏会にはならないと言った意味をようやく理解した。 「でも、舞踏会にならないって?」 「客は来ている。重要な客だけだ」 そう言って私をエスコートしていくザーラ様に躓かないようについていくのだった。
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