9.ヒョウ柄のパーカー

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ラットやヒート抑制剤がまだ国の保険適応外だった頃、アルファやオメガの性衝動は基本的に個々の “気合い” で制御しなければならなかった。 各々発情が襲ってきたときは、歌を歌ったり、親の顔を想像したり、自傷行為をしたりと様々な “自己流対処法” で乗り切っていた。 中でも鉄板の方法が「九九」や「円周率」、「素数」などの数列の暗唱だった。 「7×8=56、7×9=63、8×1……」 「焔さん!」 焔が七の段を言い終え八の段に切り替えようとした時、純恋は焔の両腕から枕を取り上げ、すかさず空いた隙間に自身の体を押入れ焔を抱きしめる。 ピタリとくっついた肌から焔の火照る体温と鼓動が伝わり、純恋の鼻腔はミルクのような甘い甘い焔のフェロモンの匂いに満たされる。 「今このタイミングで言っても説得力無いかもですけど、………俺、実はけっこう最初から焔さんに下心あったんす」 「…は……?」 「バースとかじゃなくて、単純にタイプなんです。でも路地裏で会った時はカッコイイなーって思う程度だったんすけど、公園でチワワ散歩させてるギャップとか、俺が落ち込んでたら気遣ってくれる優しさとか、俺が何を作っても美味しそうに完食してくれるとことか、一緒にいるうちにどんどん好きになって………」 「………わかったから、とりあえず離れてくれ」
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