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第一章 出会い
初めて保育園に通う頃、バスに乗るとき、私はお母さんと離れたくなくて泣き喚いていた。お母さんは困った顔をしていたが、先生が無理矢理お母さんと引き離していた。当然のことだけれど。
その時、隣に座っている少年が顔を覗き込んできた。黒い長髪に、かっこいい人だった。
「誰?」
私が泣きじゃくりながら聞くと、男の人は笑いながら言った。
「俺の名前は高岡海斗、お前の隣の家の人間だぜ」
お隣さんの高岡さんという名前を頭の中で反芻する。
誰だったっけ、じゃなく、最近お隣さんが引っ越してきたということは知っていた。
「俺、陶芸家になるため、日々特訓してるんだ!」
勝手に夢を語り始めている。私はぼんやりと聞きながら、お母さんに会いたくて、また泣き出しそうになっていた。
「おい! 泣くなよ……。あ、お前の名前は何?」
「私ですか?」
しゃくり声を上げながら、私は自己紹介をしようと思ったけど、声があまり出なかった。
「雪村梅です」
「梅! よろしく頼むぜ!」
手を差し出され、手を握り返した。なんだか、心が絆された。だから、なんでも話せそうな気がした。
保育園でも楽しく過ごせた。送迎するバスが家に送った時、お母さんが帰ってきていた。
「お隣さんに会いに行きます!」
私はお母さんにそう言って、お隣さんに会いに行った。
お隣さんはすごく家が大きかった。だって、まるで映画とかで出てそうな家だった。私が緊張していた。
扉がバンッと開いた。私は反射的に驚いて扉から離れる。
「梅!」
海斗が出てくれた。私の手を掴むと家の中に入れられた。私は手を引っ張られた。
家の中の入る前に、玄関の靴を脱いだ。
「お邪魔します」
色んなお掃除屋さんが大勢いたりしていて、私は目を瞬かせて、おどおどとしながら、海斗の後ろをついて行く。
海斗が部屋に入った。
その中には、沢山の芸術作品が並んであった。
「すごい!」
私がそう大声でいうと、海斗は自信満々に胸を張っていった。
「爺ちゃんから教えてもらってるからな!」
「でも、私みたいな子供よりも凄いですよ、売れるんじゃないですか?」
そう言って触れようとすると、怒られそうで手を引っ込めるが、海斗がその作り物を渡してきた。
「これ、プレゼント」
「え?」
「下手くそな花の陶芸だけど、許せよな」
それは虹色に輝いている花だった。ただの陶芸じゃなく、オリジナルが入った花だった。私は目を輝かせて、嬉しくて口角が無意識にあがっていった。
「ありがとうございます!」
「なんでお礼言うんだよ、これくらい普通だろ」
そういって照れ臭そうにいっている。私は嬉しくてその陶芸作品を抱きしめる。
「でも、まだ爺ちゃんがさ認めてくれねえんだ」
「まあ、私達は子供ですから、当たり前じゃないですか?」
少し頭によぎる何かの映像。首を絞められた記憶。
でも、それが何かわからなくて、私は首を傾げていた。
首が少し痒かった。
海斗の首にはバッテンのようなマークがついていた。なんのマークだろう? 私は不思議に思って聞いたあ。
「その首、なんですか?」
「ああ、昔からあるんだよ」
「昔から?」
私が聞き返すと頷いた。確かに私の首も昔からあざがあった。
「海斗、下に降りてきなさい」
「爺ちゃんからだ」
私と海斗は一緒に一階に降りていった。お爺さんは厳格のあるような人だった。私は、緊張して背筋がピンとした。
「なんだよ、爺ちゃん」
「お前、作品を作る練習するんだろ」
「ああ! 梅、見ててくれよ!」
「いいんですか?」
私が聞くと、海斗は歯を見せてニッカリと笑っていった。
「当たり前だろ!」
私は、海斗の後ろに座って、その光景を見ていた。
海斗は真剣な眼差しで、陶芸をしていた。私は、その陶芸に夢中になっている海斗の横顔に惚れていた。
その海斗の横顔をどっか見たことがあるような気がして、私はどこか胸のつっかえがあった。
「海斗、私とあなたは」
「悪い、今真剣なんだ」
話を聞いてくれなかったけれど、私は、どこかで確信していた。
私達はどこかで出会っている。それは、どこかなんてわからない。
けれど、こんな幼い頃から、こんな考えができるなんてあり得ないと思ってしまった。
大人びた考えで、こんな風に思うのは。
もしかしたら、人生二週目かもしれないと笑って思ったけど、洒落にならないと思ってしまった。
違うとは思えない、あり得ないなんて考えられなかった。
もしかしたら、本当に一回死んでいるのかもしれない。
夢を見ているだけかもしれない。だけど、どうなんだろう。
私だけが決めつけるのは、おかしい。
考えすぎなだけなのかもしれない。
でも、怖い人がいた。
知らない弟の湊人という存在。
今はいないけど、どこでどうやって会うのかわからない。
そう考えると、恐ろしくなった。
産まれてから、湊人と書かれた文字を見ると泣き叫んでしまうくらいトラウマがあった。それがなんなのかわからないけれど、それでも怖かった。
私は、おかしいのだろうか。
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